研究課題
機能未知のヒト遺伝子や遺伝子異常が原因とされる疾患を解析する場合、マウスやラットなど哺乳動物の遺伝子改変動物を作製することが従来から行われてきた。近年になり、下等生物からヒトまでのさまざまな生物のゲノム構造(遺伝子配列)が報告され、多くの遺伝子にヒトホモログhomolog(オーソログortholog)が存在することが判明した。したがって、それぞれの遺伝子の解析の際、条件が合った実験生物モデルを選択することが重要となる。カイコ(幼虫:約8 cm、6 g)は個体サイズが成体マウス(5 cm、約25 g)に近いので生化学的および形態学的解析が可能であり、かつショウジョウバエ研究のように遺伝子操作が容易であるので、ヒト疾患モデル生物として利用価値が高い。本申請では、これらの利点に基づき、ヒト遺伝性疾患解析のモデル生物としてカイコを利用するために、汎用性カイコ内遺伝子発現システムを樹立することを進めた。
2: おおむね順調に進展している
レポーター遺伝子を含んだバキュロウイルスの作製を進めた:EGFP、Ds-Red及びルシフェラーゼ(Luc) cDNAをAcNPV系バキュロウイルス発現ベクター系にサブクローニングし、レポーターコンストラクトを作製する。基本的にBac-to-bacバキュロウイルス発現システムを使用することとする。AcNPVが感染できるカイコ系統の選別と感染条件の検討を行った:九州大学遺伝子資源開発研究センターから分与可能なカイコ系統のうち、AcNPVが感染し発現可能性の高いの各種のカイコ系統(c11, d17, f10系統など)を譲り受け、検討した。ヒト遺伝子のカイコホモログの同定と解析:ヒトでは未だ機能が不明なユビキチン化酵素(ユビキチンリガーゼ)の一つであるRNF185のカイコホモログを同定したので、ヒトからRNF185のcDNAをクローニングした。
平成23年度は概ね順調に計画が進み、発現ベクター系および使用するカイコ系統の選出ができた。今後は、致死率を下げながら発現させる条件の検討を進めることが重要となる。また、ゲノム内移入が困難な場合を考え、レトロポゾンシステムを取得し、発現ベクター系の構築を進めている。平成24年度に,この新規発現系を使い,トランスジェニックカイコの作出を試みる予定である。また、RNF185の機能を調べるために、ヒトおよびカイコから結合タンパク質を同定することが重要と考えており、結合力を使用した方法を試みる予定である。
1)トランスジェニックカイコの作出の可能性の検討:AcNPV-GFPを感染させ一過性にGFPを発現させた後、さらに一部がゲノム内移入genomic integrationし、恒常発現をする可能性がある。一部の胚細胞にゲノム内移入された場合、AcNPV-GFPを感染させたカイコ成虫同士を交尾させ産卵させると、蛍光実体顕微鏡の観察で蛍光を発する卵が作出できるかもしれない。1匹の雌カイコは約500の産卵を行うので、ゲノム内移入効率が低い状態でも、産卵させる雌の匹数を増やすことで蛍光を発する卵が検出できる可能性がある。2)トランスジェニックカイコの高効率な作出の検討:前述の方法でもゲノム移入した卵が全く得られない場合は、piggyBacレトロポゾンシステムの併用によりゲノム移入の効率を上げることを検討する(既に分与済み)。目的遺伝子(まずはGFPなどのレポーター遺伝子)を含むpiggyBacトランスファーバキュロウイルスベクターとトランスポゼースを導入したバキュロウイルスベクターを構築することで、ウイルスを作製する。その後、AcNPV易感染性カイコに対してこれらのウイルスを多重感染し、交尾後産卵させる。卵を蛍光実体顕微鏡で観察して、GFP蛍光が陽性のクローン(卵)を選択する。その後、羽化してきたカイコ幼虫(成虫)においていかなる組織での発現が起きているかを、蛍光実体顕微鏡および切片作製後の蛍光顕微鏡下で観察する。GFP遺伝子の次世代での伝達が安定化するようであれば、RNF185-GFP融合遺伝子を含んだ発現バキュロウイルスを使用してトランスジェニックカイコを作出し、病理学的解析により、RNF185過剰発現による発生異常等を解析する。冬場の気温等のためにカイコの発育不良での多少の研究進行の遅れが発生し、予算上平成23年度未使用分がでたが、平成24年度になり順調に研究が進んでいる。
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