研究課題
夜行性のマウスは日内明暗サイクルの暗期に活動・摂食し,明期に休眠・絶食する。肝臓において,摂食期(暗期)には脂肪合成が亢進し,絶食期(明期)にはグルコース合成(糖新生)が亢進する。糖新生系の律速酵素であるphosphoenolpyruvate carboxykinase(PEPCK)のmRNAレベルは絶食期後期に上昇することが知られている。マウスを12時間:12時間の明暗サイクル(点灯時をZeitgeber Time ZT0時,消灯時をZT12時と称する),各種食餌自由摂食条件下にて1週間飼育後,4時間ごと(ZT3,7,11,15,19,23時)に各3匹のマウスから肝臓を採取し,PEPCK mRNAレベルの変動を調べた。今回,新たに,高タンパク質食(60%ミルクカゼインあるいは大豆タンパク質含有)摂取により,PEPCK mRNAレベルが特に摂食期に上昇することを明らかにした。一方,無タンパク質食(高炭水化物食)では同mRNAレベルが全般に低下した。これらの結果は,食餌タンパク質に由来するアミノ酸の炭素骨格から糖新生を行う必要性が生じるとPEPCK遺伝子が活性化されることを示唆した。また,同遺伝子は,アミノ酸に応答した遺伝子制御機構研究の良いモデル系となるものと期待された。さらに,やはり糖新生系の最終段酵素であるglucose 6-phosphatase(G6Pase)やアミノ酸から炭素骨格を産出するtyrosine aminotransferase(TAT)のmRNAレベルも,高タンパク質食および無タンパク質食摂食条件下において同様の挙動を示すとの予備的知見を得た。今後,これらの摂餌条件下で変動し,PEPCK,G6Pase,TAT遺伝子の制御系として機能する液性因子,細胞内シグナル伝達系の解析を行う予定である。
2: おおむね順調に進展している
アミノ酸により制御を受ける遺伝子として,当初計画していたオルニチンサイクル酵素遺伝子に加え,糖新生系酵素遺伝子に注目し,その日周発現リズムの食餌タンパク質による変動を明らかにした。アンモニア解毒系であるオルニチンサイクル酵素遺伝子は,アミノ酸に由来するアンモニアによる制御も受けている可能性があるのに対し,糖新生系酵素遺伝子の制御においては,グルコースの原料としてのアミノ酸の効果がより純粋に現れると考えられ,この面での解析には優れた実験系が得られた。
PEPCKに加え,G6Pase,TATについても高タンパク質食(60%ミルクカゼインあるいは大豆タンパク質含有)摂取によりmRNAレベルが摂食期に上昇すること,また,無タンパク質食(高炭水化物食)では全般に低下することを確認する。さらに,これら遺伝子発現の変動に対するアミノ酸の効果を媒介する可能性のあるホルモン等の血中液性因子,細胞内シグナル伝達系の解析を行う。あわせて,アミノ酸のより直接的な効果を培養細胞系を用いて検討する。
主に,液性因子,細胞内シグナル伝達系の解析,細胞培養等に必要な試薬,プラスチック器具等の物品を購入する。また,学会年会における成果発表のための旅費,データ解析の補助謝金,論文発表のための学会誌投稿料等に使用する。
すべて 2011
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件)
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