研究課題/領域番号 |
23659153
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
岡 昌吾 京都大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (60233300)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 硫酸基転移酵素 / 糖鎖 / 筋ジストロフィー / ラミニン |
研究概要 |
近年、糖鎖自身が特徴的な機能をもつ「機能性糖鎖」の存在が明らかにされつつある。α-ジストログリカン(α-DG)上に発現する糖鎖はその代表例であり、ラミニンとの結合という明確な機能を有することや、その糖鎖合成不全が先天性筋ジストロフィーの原因となることが知られている。しかし、その機能を担う糖鎖の構造および生合成機構はいまだ不明な点が多い。そこで申請者は、α-DGの機能調節に関わる分子として新たに見出した硫酸基転移酵素HNK-1STを用いて、α-DG上の機能性糖鎖の構造と生合成機構を明らかにすることを目的としている。本年度は以下に示す結果を得た。α-DGのC末端にhuman IgGのFcドメインを融合させたタンパク質(α-DG-Fc)をコードするプラスミドを構築し、CHO細胞にα-DG-Fcを発現させ、ラミニンとの結合能やIIH6(機能性糖鎖を認識するモノクローナル抗体)との反応性を指標としてα-DG上に合成される機能性糖鎖を評価した。その結果、HNK-1STはα-DGの糖鎖付加状態を変化させ、ラミニンとの結合能やIIH6との反応性を減少させる能力を有すること。また、この現象がHNK-1STの硫酸基転移に必須の1アミノ酸を変異させた変異型HNK-1STでは認められなかったことから、HNK-1STによるα-DG上の糖鎖発現制御には硫酸基転移活性が必須であることが明らかとなった。次に、HNK-1STがα-DG上の糖鎖を硫酸化することを実証するため、放射性同位体35Sで標識された硫酸ナトリウム存在下で、培養細胞にα-DG を発現させた結果、HNK-1ST 依存的な35Sのシグナルが検出されることを確認した。現在、培養細胞を用いHNK-1STによって硫酸化されたα-DGを大量に調製し、連携研究者の協力のもと質量分析によって糖鎖構造の決定を試みている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は主に、HNK-1STがα-DG上の機能性糖鎖の発現を制御すること、またその構造を明らかにすることを計画していた。実際にHNK-1STにより、α-DG上に生合成される糖鎖の合成が抑制され、ラミニンとの結合やIIH6との反応性が大きく減少することを明らかにした。また、その抑制効果には硫酸基転移活性が必須であり、また確かにα-DG上に硫酸が転移されていることを放射性同位元素による代謝標識実験により明らかにした。さらにHNK-1STにより硫酸化された糖鎖構造を質量分析で決定のために試料を調製して解析した。しかし、予想以上に硫酸化された糖鎖の量が少なく、質量分析でその構造を解析することができなかった。現在試料の調製方法に改良を加え、再度質量分析を試みている。構造解析の進展が少し遅れているが、一方で次年度に計画していた細胞を用いた機能解析の一部を前倒しして今年に行った。即ち、メラノーマ細胞を用いてレチノイン酸添加により、HNK-1STが誘導されることや細胞の移動性が変化することを確認した。この系を用いてHNK-1STが実際に細胞レベルでもα-DG上の糖鎖発現を調節することを証明する。
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今後の研究の推進方策 |
平成23年度の研究成果で新規硫酸化糖鎖の構造が解析できなかった理由として、α-DG上の糖鎖の中で硫酸化された糖鎖の割合が低いことが原因であると考えられた。そこで、α-DG上の硫酸化される糖鎖部位を絞り込むことを行う。α-DG上の機能性糖鎖はムチン様ドメインと呼ばれる領域に発現することが知られている。そこでその領域をいくつかの部位に分け硫酸化される部位を特定し(予備的な実験ではムチン様ドメインの379番目のトレオニンに主に付加されている可能性を示す結果を得ている)、その試料から糖鎖を切り出して構造解析を行う。また、新規硫酸化糖鎖の機能解析に関しては予定通り24年度に行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
上記糖鎖構造解析とともに24年度は計画通り、硫酸化された糖鎖の機能解析についてメラノーマ細胞を用いて行う。23年度に、メラノーマ細胞にレチノイン酸(RA)を添加するとHNK-1STの発現が誘導され、細胞移動性に変化が起こることが確認できた。そこで、RA添加(±)のメラノーマ細胞からα-DGを抽出し、ラミニンとの結合性を指標に、RA添加で誘導されたHNK-1STがα-DGの機能に与える影響を明らかにする。次にα-DG上の機能性糖鎖を認識すると言われている抗体IIH6(エピトープ構造は未同定)を用いて免疫染色を行い、RA添加によるメラノーマ細胞のIIH6抗体反応性の変化、すなわちα-DG糖鎖構造の変化を細胞レベルで明らかにする。その後、細胞の移動性を評価するTranswell migration assayを用いてRA添加によるメラノーマ細胞の移動性変化について解析する。これらの解析により、細胞分化時に生じる細胞接着性および移動性の変化におけるHNK-1STにより合成される糖鎖の機能を明確にする。
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