研究概要 |
申請者らのグループは、"糖尿病になるとインスリン受容体細胞外ドメイン(soluble Insulin Receptor : sIR〈可溶性インスリン受容体〉)が切断され,血中に遊離される"という予想外の発見をした(Diabetes, 2007)。これはインスリン結合部位であるαサブユニットを含み、インスリンと結合してインスリンを不活化していると考えられ糖尿病の病態における意義は大きい。本研究は血中インスリンがsIRと結合し不活化されている事を明らかにし、かつ不活化インスリン量を正確に求めるELISA測定系を確立し糖尿病病態との関連性を明らかにすることを目的としている。 sIRに結合しているインスリンは極めて微量であると予測される(血清100mlに2ng/mlのsIRが存在するとしてこれに結合している全インスリン量は0.075mIU)。このため従来使用されているインスリン測定系では正確な定量はできない。申請者は免疫複合体転移測定法(ICT-EIA ; Immunno-complex transfer-enzyme immuno assay)による超高感度インスリン測定法を開発した(未発表)。この系では、非特異的シグナルが最小化しバックグラウンドを格段に低下させられることから、従来のELISA法の数百倍から千倍の感度でインスリンの定量が可能となる。 インスリン結合部位であるαサブユニットに対する抗体3種を用いて実験を行ったが、いずれもインスリンとの結合に影響を与えることが明らかとなった。そこでβサブユニットの細胞外ドメインに対する抗体18-44を使用した、ヒト血清そのものに18-44を加えても、sIRは免沈できないが40倍希釈すると免沈できることが分かった。しかし、高倍率の希釈ではsIRと結合しているインスリンは測定不能であった。1/25希釈だとなんとかsIRと結合しているInsを測定できる。アルブミン、グロブリンを除くカラムを使用したが、同時にsIRもインスリンも吸着してしまうことが分かった。今後低希釈でsIRを沈降させる方法を考える必要がある。
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