研究課題
1. サンプルの収集:欧米のグループが発表した原発開放隅角緑内障の大規模ゲノムワイド関連解析には落屑緑内障のマーカーとして同定済みのLOXL1が含まれ、症例群に鑑別診断が難しい落屑緑内障が20%程度混入していると強く疑われる。落屑緑内障は瞳孔縁、水晶体表面に特徴的な偽落屑物質が見られる偽落屑症候群によって生じる続発性の緑内障で、70歳以上に多発し高齢者の失明原因として重要な疾患である。本学緑内障専門外来では、視野異常を来している緑内障症例で、瞳孔縁や水晶体嚢に付着する落屑物質を生体顕微鏡で確認し、さらに隅角検査での色素高位付着を参考に熟練した緑内障専門医が厳密な落屑緑内障の診断を行っている。落屑緑内障と診断された患者のうち250人から研究協力の同意を得て、血液を採取し匿名化した上でゲノムDNAを抽出した。正常対照は研究協力の同意を得て、緑内障精密検査を実施した中から厳密に選別した。具体的には、視野(FDT、ハンフリー静的視野)、眼底写真、HRT、GDx、ペンタカム、ビサンテ、3D-OCTによる網膜神経繊維層厚解析等を実施し緑内障専門医が診察を行ったうえで、複数の緑内障専門医が緑内障でないと判定した。この中から問診上の緑内障家族歴のあるものを除き厳正に選別した。症例群と同様に血液を採取し匿名化した上でゲノムDNAを抽出した。2. 1000KチップによるSNPジェノタイピング情報の取得本年度は現有している検体のジェノタイプの取得に着手した。匿名化された血液検体からゲノムDNAを抽出し、アフィメトリックス社のGenome-Wide Human Array 6.0 システムを用いてヒト全ゲノムにわたる900,000個以上のSNPジェノタイピングを実施した。現在はマイクロアレイをスキャンして得られた膨大な生データを専用ソフトウェアによりジェノタイプ情報に変換しているところである。
2: おおむね順調に進展している
平成23年度の計画は、検体収集と1000Kチップによるジェノタイピング情報の取得であった。厳密に診断された落屑緑内障の症例収集は計画どおり落屑緑内障250例を達成した。正常対照群は疾患対象年齢より若い参加者が多いという点を改善すべく、できるだけ高齢者への参加の呼びかけをして症例群との年齢に開きがないよう心がけた結果、70代前後の正常対照群が増えた。 ジェノタイプデータについては、現有している落屑緑内障症例を用いたマイクロアレイ実験を開始し、ヒト全ゲノムにわたる900,000個以上の生データの取得を終え、現在はジェノタイプデータに変換中である。マイクロアレイ実験からジェノタイプ情報の取得に至る一連のプロセスは、現有のサーバーシステムにより順調に稼働している。次年度のケースコントロール相関解析、混入程度推定、欧米人データとの比較・統合解析に向けて順調に推移していると思われる。
1, ケースコントロール相関解析:現在計算中のジェノタイデータからアレル頻度に基づくχ二乗検定によりP値を算出し、ケース群で有意なSNPを同定する。あらゆるフィルターをクリアしたSNPについては、そのSNP周辺の染色体情報(遺伝子の有無や連鎖不平衡ブロック)をUSCSのゲノムブラウザ(http://genome.ucsc.edu/)を用いて解析する。2. 仮想検体群作製によるアイスランド診断への混入程度推定:今回取得した日本人落屑緑内障症例250例の1000Kチップデータと他プトジェクト・他予算で取得中の原発開放性偶角緑内障1000例と両疾患について精密検査によって緑内障でないと診断された対照群700例の1000Kチップデータを用いて、ランダム抽出の手法により、落屑緑内障の原発開放性偶角緑内障群への様々な比率での混入群を作製し、アイスランドdeCODE社から発表したLOXL1のSNP rs4236601のP値5.0×10-10、オッズ比1.36に近似する混入比率を割り出す。また、対照群に原発開放性偶角緑内障群をランダム抽出の手法により落屑緑内障症例を混入することで仮想検体群を作製し、アイスランドの対照群に緑内障症例が混入している割合の近似値を推定する。3. 欧米人データとの比較および統合解析:LOXL1を同定した欧米グループが取得したイルミナ社のチップを用いた約300,000SNPについてのジェノタイピングデータをデータベースからダウンロードし、我々と同一の検定方法により再検定した結果をside-by-sideで多角的に比較する。加えて、我々の取得したデータとの統合解析を試みることで、統計学的な検出力を上げ、日本人と欧米人とで共通するLOXL1以外のSNPの同定も試みる。
引き続き行う落屑緑内障症例群および正常対照群のゲノムデータ取得のための、試薬などの消耗品について20万円要する。またデータ解析に必要な補助要員の謝金な70万円を要する。この補助要員についての内訳は、緑内障病型診断などに必要な緑内障精密検査にあたる検査員雇用費用40万円、ゲノムデータ解析のデータ整理にあたる事務補助要員雇用費用30万円を想定している。ジェノタイピングの解析に用いる機械のメンテナンス料として20万円要する。国内および海外での競合する遺伝子研究の情報収集や発表のための参加費用としては30万円要する。
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