研究課題
インスリンはランゲルハンス島β細胞で産生される生体内で唯一の血糖降下因子である。成熟β細胞ではブドウ糖の刺激でインスリンは(1)転写量の増加、(2)翻訳量の増加、(3)分泌量の増加、で血糖上昇により必要となったインスリンをまかなっている。近年の研究で上記(1)~(3)のうち、(1)インスリン遺伝子の転写調節機構と(3)分泌に関する分子機構、が明らかにされてきた。しかし、(2)インスリン生合成の翻訳レベルでの調節の分子機構は未解明のままである。本研究では、ブドウ糖刺激によるインスリン生合成の翻訳調節に関わるインスリンmRNAのcis領域とcis領域に結合して翻訳調節を調節しているtrans因子の実体を明らかにすることを目標としている。具体的には、1.ヒトインスリン遺伝子の5’-上流領域~mRNAの5’-非翻訳領域(5’-UTR)をPCRで分離した。5’-UTRは種々の長さの異なるものを分離した。2.1.で分離した種々の長さのインスリン遺伝子DNAを蛋白質の代表的不安定化配列であるPEST配列を有する不安定化レポーター(ルシフェラーゼ)と結合した融合遺伝子を構築した。3.2.で構築した種々の融合遺伝子をヒトインスリン産生細胞である1.1B4細胞にトランスフェクションし、この細胞を低濃度ブドウ糖と高濃度ブドウ糖に被曝した。被曝後2時間以内のレポーター活性を測定してブドウ糖刺激によるインスリン翻訳調節に関わるヒトインスリンmRNA中のcis配列を明らかにした。4.3.で明らかになったcis配列をキー配列として、他種生物のインスリンmRNAと比較を行い、そのコンセンサス配列を明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
当初計画ではラットのランゲルハンス島を用いて実験を行う予定であったが、ラットやマウスでは2つのnon-allelicなインスリン遺伝子が存在し(Insulin I & Insulin II)、(1)両者の翻訳調節機構が同一とは限らない、(2)両者を区別するために実験系が複雑化する、という問題点があった。また、医学系の研究においては、「ヒトのことが知りたい」という基本的な希望が常にあることも事実である。本研究の申請書作成時(2010年秋)及び交付申請時(2011年春)にはブドウ糖感受性のヒト膵ランゲルハンス島β細胞由来の培養細胞が存在せず、さらにヒトランゲルハンス島は我が国では容易に入手出来ない状況にあったため、こうした状況下での最善の計画としてラットランゲルハンス島を実験材料として選択していた。しかし、2011年6月に英国のFlatt博士らにより、ブドウ糖に応答した反応の認められるヒトインスリン産生細胞株(1.1B4細胞)が樹立された(McCluskey et al. J. Biol. Chem. 286, 21982-21992, 2011)。そこで、ラットで実験を進める一方で、2011年9月の欧州糖尿病学会(Lisbon)時にFlatt博士に直接面談し、1.1B4細胞を譲渡してもらった。その後、同細胞を用いて当初の実験計画の目指した内容をヒトの系で遂行した。当初計画に沿った形でどこまで達成出来たか?という指標で達成度を評価すれば系が変わっている点は「マイナス」評価になるという見方は理解出来る。しかし、医学として、医化学として、病態医化学として、どうか?と考えればむしろ「プラス」と評価することも可能であると考えている。いずれにしても、当初計画で目指した「内容」は年度内に達成している。
1.平成23年度に同定されたヒトインスリンmRNA中のcis配列を標識RNAプローブとして合成する。ブドウ糖刺激時、非刺激時の1.1B4細胞やラットランゲルハンス島から細胞抽出液を調製して、上記のRNAプローブと結合反応を行った後に非変性条件でゲル電気泳動を行い、標識RNAプローブの移動度を比較してインスリンmRNA中のcis配列に結合するtrans因子量の有無とブドウ糖刺激による結合量の変化を明らかにする。2.1.1B4細胞以外のインスリンの生合成を行わない組織・細胞(肝臓、腎臓、線維芽細胞、網状赤血球など)から細胞抽出液を調製し、上記1.と同様の実験を行い、インスリンmRNAの翻訳調製に関わる因子の組織特異的発現を明らかにする。3.1.1B4細胞抽出液やラットランゲルハンス島から硫安分画・イオン交換カラムクロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィー、cis配列を利用したアフィニティークロマトグラフィー等を組み合わせてインスリンmRNA中のcis配列に結合するtrans因子を分離し、その実体を明らかにする。精製の指標としての各画分の活性(インスリンmRNA中のcis配列に結合するtrans因子量)は上記1.の方法でアッセイする。4.網状赤血球ライセート、小麦胚芽ライセート等のin vitro蛋白質翻訳系に3.で分離したtrans因子を添加してインスリンmRNAを鋳型にin vitro翻訳を行い、インスリンmRNAの翻訳がin vitroで変化することを明らかにする。
1. trans因子の検出のためラジオアイソトープを購入する。2. 成果公表のため成果発表旅費・論文投稿料を、最新の関連研究動向を知るために調査・研究旅費計上する。3. ランゲルハンス島分離のため実験動物を購入する、またその飼育・維持のため実験補助謝金が必要である。4. 1.1B4細胞やランゲルハンス島細胞の培養のため培地・血清・プラスチック器具類が必要であり、購入する。5. 遺伝子の分離や組換えなどのため生化学・分子生物学試薬が必要である。
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