研究課題
がん細胞においては、ゲノム全体の低メチル化と、ある特定の遺伝子の高メチル化がおこることが知られている。しかし、細胞のがん化に伴い、このようなメチル化領域の再編がおこるメカニズムは未だに不明である。近年、多くのがん細胞で転写因子NRF2が恒常的に活性化し、がん細胞の悪性化をもたらすことが明らかになった。その一因は、NRF2の抑制性因子であるKEAP1の発現低下であり、がん化に伴いKEAP1遺伝子がメチル化されることがわかった。本研究では、がんの悪性化におけるKeap1-Nrf2制御系の役割を明らかにし、Keap1遺伝子発現の低下の検証とその分子メカニズムの解明を目的とした。まず、がんの進展にともないKeap1遺伝子の発現が低下するかどうかを、マウスの発がんモデルとして、ウレタン投与による肺の化学発がんを採用し、検討した。ウレタン投与後20週間経過後、肺に発生した腫瘍におけるKeap1の発現を検討したところ、その発現低下は認められなかった。また、同時に、Nrf2欠損マウスに対してウレタン投与を行い、肺に発生する腫瘍におけるKeap1遺伝子発現を調べたがこちらもまだ変化は認められていない。そこで、さらに経過をおいつつ、当初の計画どおり、p53欠損マウス、Pten欠損マウスにおいて自然発症する腫瘍におけるKeap1遺伝子発現の解析を調べつつある。また、がん化に伴うエピジェネティックな変化を解析するための実験系として、成体の肝臓に着目した。G0期にある肝細胞ではNrf2により活性化をうける標的遺伝子が限られているのに対して、PI3K-Akt経路を活性化させた場合、より多くの標的遺伝子がNrf2により大きく活性化されることを見いだした。興味深いことに、これら標的遺伝子のプロモーター領域のメチル化状態が変化しているという予備的な結果を得ている。
1: 当初の計画以上に進展している
がん化にともなうエピゲノム制御の変化とそのメカニズムの解明を目指す観点から、Keap1遺伝子を第一の素材とした。これは当初の計画どおり、ウレタン発がんモデル、p53遺伝子欠損マウス、Pten遺伝子欠損マウスを用いた実験を進行させている。一方、Keap1遺伝子以外に、Nrf2の標的遺伝子の一部で、細胞の増殖状態によりDNAメチル化に変化が認められる可能性を見いだしている。
p53欠損マウス、もしくは、Pten欠損マウスにおいて自然発症する腫瘍へと実験系を移す必要が出てくる可能性がでてきたので、p53欠損マウス、もしくは、Pten欠損マウスとNrf2欠損マウスの交配をすすめ、複合変異マウスにおける腫瘍発生の解析を進める。また、細胞の増殖状態に応じたNrf2による転写活性化の違いをマイクロアレイ、ChIP解析などを通して明かにして、エピゲノムの変化の実態とその制御機構を追究する。
p53欠損マウス、もしくは、Pten欠損マウスとNrf2欠損マウスの交配を行うことから、マウスの飼育管理経費として使用する。また、マウスの組織解析や遺伝子発現解析のために、組織解析関連試薬と消耗品、分子生物学実験関連試薬などの購入費とする。さらに、メチル化の責任領域の同定がなされてその十分性の検討に進む場合は、MafK遺伝子をふくむBACクローンを購入し、その組換え体作成のために必要な試薬類の購入を行う。
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