本年度は、以下の研究に取り組んだ。ホスファチジルイノシトール3-キナーゼ (PI3K) クラスIIアルファ酵素 (PI3K-C2α)ノックアウト(KO)マウスを作成したところ、ホモKOマウスは血管新生異常を呈して胎生致死であった。本研究ではKOマウスの血管異常に着目し、作成した全身型、内皮特異的、平滑筋特異的な3種のPI3K-C2α-KOマウスを用いて、内皮および平滑筋のPI3K-C2αがそれぞれ血管ホメオスターシスの破綻(動脈瘤、透過性異常)とPI3K-C2α-KOマウスにおける血管異常の分子機構を解明することを目的とした。 その結果、PI3K-C2α+/-マウスは生存可能であったが、血管障害作用を有するペプチドアンギオテンシンIIを長期投与すると、高率に動脈瘤が形成された。動脈瘤は特徴的に解離性であった。PI3K-C2α+/-マウス大動脈では、血管障壁(バリア)機能が低下し、血管壁にマクロファージが浸潤し、マトリックスメタロプロテイナーゼ活性が亢進していた。また、血管障壁機能低下は、アナフィラキシーモデルでも確認された。培養内皮細胞を用いた検討では、PI3K-C2αは細胞間接着部位へのVE-カドヘリン集積に必要であった。すなわち、PI3K-C2α+/-の欠損は血管バリア機能を傷害し、動脈瘤形成などをきたすことを明らかにした。 これらの結果は、PI3K-C2αは正常な小胞輸送に必須の役割を担うPI-3-Pの産生酵素であり、血管病の新規治療標的となりうることを明らかにした意義のあるものである。
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