研究課題
グロボ系糖脂質の中で、Gb4のみがLPS受容体であるTLR4-MD-2複合体に結合することを、免疫共沈降及びNative-PAGE等によって示してきたが、さらに、MD2-FLAG-Hisx6-tagタンパク質と共に沈降する糖脂質分子の分子構造につき、脂質ドメイン(長さと飽和度)に焦点をおいて解析した。沈降物を用いて、Orbitrap MS解析を行った結果、d18:1のスフィンゴシンに加えて、C16:0及びC24:0の飽和型の脂肪酸を含有するセラミドのみが、複合体に結合することが判明した。このことは、Gb4とTLR4-MD-2複合体の結合が脂質ラフトにおいてのみ起こっていることを示した、免疫蛍光細胞染色の観察結果とよく一致するものであった。最終的に、グロボ系糖脂質(Gb4)が実際のグラム陰性桿菌の重症感染時のエンドトシンショックに対する有効な治療法になりうるかを検討するために、D-GlcNAc前投与によるLPS重症傷害状態のマウスに、Gb4を投与して、その治療効果を検討した。その結果、LPS投与後4時間の時点で、Gb4の投与を行った時に、無処置マウスではほとんど死亡したのに比べて、約50%の生存が確認された。血中LDH値も、前者で0.35前後(OD490)だったところが、後者では約0.1に低下した。病理組織所見の比較検討においては、無処置では肺と肝臓に細胞浸潤が見られ、とくに肝臓で広範で著明な出血壊死が惹起されたのに比べて、Gb4注入マウスでは軽微な壊死所見のみを認め、大部分は原型を留めていた。よって、エンドトキシンショックの治療方策としてGb4投与が有効であることが示された。総じて、中性糖脂質の内因性リガンドとして、TLR4-MD-2が初めて同定されると同時に、その臨床応用の可能性が示された。
2: おおむね順調に進展している
Gb3合成酵素遺伝子(A4galt)のノックアウトマウスのLPSに対する感受性の亢進を発見して以降、そのメカニズムの解析を進めることにより、今まで全く機能が分からなかったGb4の重要な役割を明らかすることができた。さらに、そのメカニズムとして、Gb4がLPS受容体であるTLR4-MD-2複合体に特異的に結合して、LPSの受容体への結合を阻害することも分かった。また、LPS投与によって惹起されるエンドトキシンショックに対する治療法として、Gb4が効果的に機能する可能性が確認できたことは、今後の研究展開に新たな方向を示すものといえる。
糖鎖を含めたグロボ系糖脂質分子とTLR4-MD-2との結合様式に関して、分子ドッキングモデルによる解析と、実際の分子複合体の形成に基づく結晶解析を行って、詳細な相互作用のメカニズムを明らかにしたい。さらにこれらの研究成果の発表のため、新しい論文の投稿を準備中である。
これまでの結果で明らかになったGb4とLPS受容体であるTLR4-MD-2との複合体形成のメカニズムの解明のため、①以前より続けている複合体の結晶構造解析、②セラミド構造の差異によるGb4の分子種間のTCR4-MD-2との結合特異性に関する分子モデルおよび免疫化学的実験を、予算を繰り越しして実行する予定である。従って、繰り越し予算は、Gb4の脂質部位の分子構造に基づく再精製と結合実験および結晶構造解析のための試薬類の購入と論文作成のために使用する。
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