研究課題/領域番号 |
23659172
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
月田 早智子 大阪大学, 生命機能研究科, 教授 (00188517)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | タイトジャンクション / クローディン / 自己免疫疾患 / 自己抗体 / 上皮細胞 / ノックアウトマウス / Rag2/Jak3ノックアウトマウス / 炎症 |
研究概要 |
自己を免疫学的な攻撃対象とする自己免疫疾患は、いずれも根治が難しい難病であるが、疾患の原因となる自己抗原が明確ではない場合が多い。一方、多くの自己免疫疾患では、上皮細胞シートで囲まれた内部組織が炎症の主要な場である場合が多い。そこで本申請では、クローディンなどのタイトジャンクション構成蛋白質が自己免疫疾患の標的であると想定し、クローディンノックアウトマウスとRag2/Jak3ダブルノックアウトマウスを用いて、クローディンに対する自己免疫疾患モデルマウスを作製し、タイトジャンクション構成蛋白質と自己免疫疾患との関連性について検討することを主な目的とする。 研究遂行に必要なタイトジャンクション関連遺伝子のノックアウトマウスはすでに複数存在している。これらのマウスで欠損する遺伝子由来のクローディン蛋白質(またはペプチド)をこれらのノックアウトマウスにインジェクション・抗原感作し脾臓を摘出後、その細胞画分をRAG2/JAK3ダブルノックアウトマウスにインジェクションすると、免疫寛容を免れた、該当クローディン蛋白質を標的とする抗クローディン抗体がRAG2/JAK3ダブルノックアウトマウスで産生されると想定される。即ち、クローディンに対する自己免疫疾患モデルマウスが作出される。 クローディンノックアウトマウスは複数種類存在するが、表現型が予想されやすいクローディンから順に抗クローディン自己免疫モデルマウスの作出を試みる。 RAG2/JAK3マウスに脾臓細胞をインジェクション後、1月、3月、半年、1年など適宜時間を区切り、主に、組織学的および生理学的、血液生化学的、免疫学的解析を行う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究に必要なクローディンおよびクローディン以外の数種のタイトジャンクション関連遺伝子ノックアウトマウスは、すでに大阪大学動物施設で飼育し、表現型の解析中である。自己抗体産生マウスとして用いるRag2/Jak3ダブルノックアウトマウスは、熊本大学CARDより凍結胚の分与を移植がすみ、成育を進めていたが、妊娠メスマウスの出産時に、異常分娩が重なった。しかし、本申請では、本ダブルノックアウトが必須であるので、平成24年度も引き続き、計画を進行する。 即ち、1;ノックアウトマウスにノックアウトされた遺伝子産物蛋白質をインジェクションする。2;数回のブーストを経たのちに、脾臓を摘出し、ホモジナイズする。Rag2/Jak3ダブルノックアウトマウスの尾静脈からインジェクションする。このホモジナイズの中に、ノックアウトされたクローディンに対する抗体を産生するリンパ球が含まれる。Rag2/Jak3ダブルノックアウトマウスは、抗体のクラススイッチができない重症複合型免疫不全マウスなので、尾静脈から移植されたリンパ球は拒絶されずに生着し、抗体の産生を続ける。こうして、特定のタイトジャンクション関連蛋白質に対する自己免疫疾患モデルマウスが作出できる。3;こうして、順次タイトジャンクション関連蛋白質を標的とする自己免疫疾患モデルマウスを作出する。4;マウスの解析については、通常の観察を行いつつ、 Rag2/Jak3ダブルノックアウトマウスへの脾臓由来リンパ球インジェクション後、1月、3月、半年、1年を目処に、剖検を行い、全身の組織学的な解析を行い、組織構築の変化、炎症の有無・程度、蛍光標識ラベル抗マウス抗体を用いた蛍光自己抗体染色、などを行う。6;同時に、採血を行い、炎症の有無(CRPや白血球画分)/イムノグロブリン画分の変化/血沈などの検査を行う。さらに、通常の膠原病マーカーの検討を行う。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度には、平成23年度の計画を進めるが、Rag2/Jak3ノックアウトマウスの交配の交配で、妊娠メスマウスが得られたものの、出産時に正常分娩されず、Rag2/Jak3ノックアウトマウスが得られなかった。しかし、これらのマウスは本申請では必須なので、引き続き進める。【平成24年度】クローディンマウスをはじめとするタイトジャンクション関連遺伝子のノックアウトマウスが複数種存在するので、ノックアウトされている当該精製クローディン蛋白質をこれらのノックアウトマウスへインジェクションして自己抗体を産出するモデルマウスの作出と解析を進める。なお、クローディンを含む膜貫通型の蛋白質は、ウサギやラットなどでも特異的な抗体の作製が困難な場合が多い。本研究では、クローディンノックアウトマウスとRag2/Jak3ノックアウトマウスを用いることで、自己抗体の産生が通常に比べ行われやすくなっている。このことを利用し、ウエスタンブロットや蛍光染色でクローディンを認識できる特異的抗体の作製も試みる。 自己免疫疾患を含む表現型が得られた場合には、その治療方法について検討を進める。考えられる方法としては、1)自己抗原とした蛋白質を用いての抗体の吸着、2)抗原となるペプチドの投与による抗原抗体反応の中和、などである。さらに、アトピー性皮膚炎等のアレルギー性疾患の治療法として用いられる脱感作療法の効果も検討したい。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度は、直接経費として1,900千円(予定内訳;物品費1,738千円、旅費108千円、その他54千円)の交付予定で、また、平成23年度からの持ち越しとして直接経費として571,587円が計上される。マウスの交配/飼育が後半に増える予定であり、平成23年度の繰り越し分の充当を予定している。経費は、有効な使用に徹する。1、備品;平成23年度に引き続き、顕微鏡や細胞培養のインキュベーターなど、研究に必要なほとんどの備品は大阪大学分子生体情報学教室に既存の備品で研究を遂行するとともに、大学に備え付けの共同機器を積極的に利用する。平成24年度も新規購入は計画していない。2、消耗品/その他;マウス飼育は、特に、本年度の後半から増加する可能性が高い。そのため、特に、後半に向けて経費のかかる年度になると計画される。・抗原ペプチドや融合蛋白の作製、炎症の程度や種類を同定するための染色・マーカー抗体やRT-PCRでの検討、プライマーの購入など、が必要である。・マウス飼育・購入費用を概算している。・自己免疫疾患や炎症の判定のための血液検査が必要である。・英語論文校正用の経費を計上している(論文1報分を概算)。・学会のための旅費を計上している。本研究が予定に従って進み、クローディンが自己免疫疾患の原因抗原であることが示唆されると、自己免疫疾患に対する、これまでにない新たな疾患戦略や対策が導きだされる可能性が期待される。
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