研究課題
低酸素に対する応答反応は、低酸素応答のマスターレギュレーターとも呼ばれる転写因子HIFによって制御されるが、そのHIFもまたプロリン水酸化酵素PHDによって負に制御されている。すなわち、PHDは細胞胞内酸素濃度センサーとして低酸素応答を負に制御しているということが出来る。 PHDファミリー(PHD1~PHD3)のなかでも、PHD2が主要なプロリン水酸化酵素であり、研究代表者が作製したPHD2を破壊したマウス(タモキシフェン投与によってPHD2遺伝子を全身で破壊できるコンディショナル・ノックアウトマウス)は、通常酸素濃度下においてもHIFが恒常的に活性化し、細胞内エネルギー代謝が「低酸素と勘違いした」かのような状態に陥る。本研究では、その低酸素応答におけるエネルギー代謝の制御、特に糖代謝の制御機構に着目している。 PHD2を全身で破壊させたマウスにおいては、対照群と比較して著明な空腹時低血糖が観察されるだけでなく、グルコースの腹腔内投与にても血糖値の上昇が殆ど認められない。さらに、インスリン投与によるAktのリン酸化が亢進していたことから、PHD2を失活させるとインスリン感受性が亢進し、それによって血糖が降下すると考えた。 そこで、PHD2ノックアウトマウスにおいて高脂肪食ダイエットによる二型糖尿病のモデルマウスを作製し、PHD2を失活させることが、高脂肪食ダイエットによるインスリン感受性の低下(インスリン抵抗性)を改善することが出来るかどうかを確認した。その結果、PHD2ノックアウトマウス群では摂食時・空腹時ともに対照群と比較して有意に血糖値が低下していることが解った。現在、高脂肪食ダイエットによって惹起されるインスリン抵抗性が、PHD2ノックアウトマウスではどうなっているのか、各臓器(主に肝臓と骨格筋)におけるインスリン感受性を評価しているところである。
3: やや遅れている
研究に用いるマウスの米国からの搬入が、マウス飼育施設の感染という先方のやむを得ない事情により大幅に遅れたため、当初の研究計画全体が後ろ倒しとなった。
Phd2コンディショナルノックアウトマウスを用いて高脂肪食ダイエットモデルを作製し、Phd2を介した低酸素応答が、血糖コントロール・グルコース/グリコーゲン代謝・脂質代謝に与える影響を調べる。 また、今年度後期より、肥満/耐糖能異常マウスにPHD阻害剤を投与し、低酸素応答が肥満/耐糖能異常に寄与する影響について調べる実験も開始できるものと思われる。 なお、遅延を取り戻すべく開始した新しい繁殖計画は順調に進んでおり、平成24年度中には当初の研究計画のロードマップに戻ることが出来ると思われる)
海外より入荷予定であったマウスの搬入が大幅に遅れ、繁殖計画を含めた実験計画全体が半年程度後ろ倒しとなったため、未使用額が派生した。 しかし、より大きなマウスの飼育スペースでのより効率的な繁殖を行うことで、実験計画の遅延は取り戻せると考えている。 それにともない、動物飼育費・サンプル調整用の試薬などの単位時間あたりに消費する研究費も必然的に増加するため、平成23年度で派生した未使用予算と平成24年度の予算は、平成24年度中に執行することが可能と思われる。具体的には、主にマウスの移送費用・維持費・特殊飼料費などに使用予定である。
すべて 2011 その他
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (2件) 備考 (2件)
Proc Natl Acad Sci U S A.
巻: 108 ページ: 13379-86
10.1073/pnas.1110104108
http://gasbio.jst.go.jp/contents/achievement.html
http://researchmap.jp/minamishima/