組織はいくつかの種類の細胞の集合であり、細胞は細胞外基質に接着し毛細血管のネットワークで栄養されている。すなわち組織としての恒常性は、個々の細胞の機能と細胞外基質の産生・分解のバランスおよび栄養によって保たれる。線維化は炎症の遷延化などに伴った線維芽細胞の過増殖と細胞外基質の産生・分解のバランスが崩れることによって起こるが、これは不可逆的な生体応答であるため明確な治療法は残されていない。当研究室では関節リウマチ(RA) の滑膜細胞から小胞体関連分解 (ERAD) に関与する E3 ユビキチン化酵素シノビオリンを発見し、ERAD システムの破綻が RA の発症・病態につながることを明らかにしてきた。近年さらにシノビオリンが肝線維化を正に制御すること、また分泌タンパク質を基質として量・質を調節することを報告した。本研究ではこの研究成果を発展させ、線維化に関わるサイトカイン・細胞外基質の調節にシノビオリンがどのように関与するかを明らかとし、種々の臓器での線維化の共通機序を総合的に理解することを目的としている。 本年度は以下のことを明らかにした。①シノビオリンのコンディショナルノックアウトマウスを用いて成体における発現解析を行い、末梢血有核細胞、脾臓、肝臓、胸腺、関節において共通して炎症性サイトカインの発現が抑制されている。②シノビオリンの自己ユビキチン化活性を指標としたスクリーニングを行い、約200 万個の化合物ライブラリーより 2 種類の阻害活性を有する化合物を得た。③Surfactant Protein C (SP-C) の変異による肺線維化にシノビオリンが関与し、シノビオリン阻害剤および siRNA が SP-C の発現および線維化の代表的な細胞外基質であるコラーゲンの分泌を抑制した。
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