研究課題
インプリントDMRは片方の親由来アレルのみがメチル化しているため(母性メチル化DMRと父性メチル化DMR)、正常ではおよそ50%のメチル化を示す。また、配偶子形成過程でDMRが確立されるgametic DMRと受精後の体細胞でDMRが確立されるsomatic DMRがある。昨年度の研究で作製・樹立したiPS細胞(iPSC)(健常者2名とインプリンティング疾患Beckwith-Wiedemann症候群(BWS)患者2名(KvDMR1低メチル化1例とH19DMR高メチル化1例)の末梢血細胞由来)についてゲノム中の36ヵ所のインプリントDMRのメチル化を定量的に解析した。その結果、患者末梢血でみられたKvDMR1低メチル化およびH19-DMR高メチル化は、患者由来iPSCにおいても保たれていた。また、健常者由来、患者由来に共通してメチル化が保たれていたDMRは6ヵ所で、すべてgametic DMRであった。KvDMR1とH19-DMRを含む計8ヵ所のDMRのメチル化は、iPSC化(リプログラミング)による初期の対象とはならないと考えられた。一方、ほぼすべてのクローンで共通してiPSC化によりメチル化が変化したDMRは11ヵ所あった(高メチル化9ヵ所、低メチル化2ヵ所)。高メチル化は、somatic DMR 5ヵ所、gametic DMR 3ヵ所、不明1ヵ所で、低メチル化は、gametic DMR 1ヵ所、不明1ヵ所であった。さらに、母性メチル化DMRは低メチル化を示し、父性メチル化DMRは高メチル化を示した。この結果から、iPSC化によって、特定のインプリントDMRは、gametic、somaticに関わらずメチル化の変化が生じ、そのメチル化は父性パターン(父性エピジェノタイプ)へ変化することが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
H23年度の研究で樹立したBWS患者2例と健常者2名のiPSCの解析から、一部のDMRのメチル化はiPSC化(リプログラミング)による初期の対象とならないこと、他の特定のDMRはiPSC化により母性アレルのメチル化パターンが父性アレルのメチル化パターン(父性エピジェノタイプ)へ変化することが示唆される結果を得た。この結果は、新しい知見であり、特に、母性アレルは由来細胞においてメチル化DMRと非メチル化DMRが存在する。このため、iPSC化による父性エピジェノタイプへ変化は、母性アレルのDMRでは脱メチル化とメチル化の両方が生じることを意味している。iPSC化にともなうリプログラミング機構を理解する上で重要な知見と考えられる。一方、マウスiPSCの分化能評価については、充分な進展がなかった。
ヒトiPSCでは、iPSC化による父性エピジェノタイプへ変化を他の解析手技で確認する。確認後は、iPSCを分化誘導させることにより、父性エピジェノタイプへ変化した母性アレルDMRのメチル化が元に戻るか否かを解析する。分化誘導の際に、DNAメチル化酵素、ヒストン修飾酵素などの候補遺伝子をノックダウンすることで、DMRのメチル化制御因子を探索する。ヒトiPSCについては、in vitro分化およびヌードマウス接種による奇形種形成実験を行い、メチル化の違いによる分化能を評価する。一方、マウスiPSCの分化能評価については、ジャームラインキメラ法にて評価する。得た生産仔及び致死胚について刷り込みDMRのメチル化解析を行い、メチル化の変化の有無と程度を解析する。
次年度は、主としてヒトiPSC培養とDNAメチル化解析に必要な消耗品に研究費を充てる。その他、成果発表のための旅費、試料の運搬費、英文校正費に使用する予定である。
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