研究課題/領域番号 |
23659184
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
高橋 均 新潟大学, 脳研究所, 教授 (90206839)
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研究分担者 |
豊島 靖子 新潟大学, 脳研究所, 准教授 (20334675)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 新経変性疾患 / 多系統萎縮症 / 筋萎縮性側索硬化症 / 細胞内凝集体 / 核内小体 |
研究概要 |
多系統萎縮症(Multiple System Atrophy;MSA)は、脊髄小脳変性症のなかで最も頻度が高い疾患であるが、その病態機序はいまだ不明である。オリゴデンドログリア胞体内に出現するalpha-synuclein陽性封入体が一次的な病変と考えられているが、これら封入体は神経細胞の核内、胞体内にも早期から出現することから、神経細胞死のプロセスの起点がその核内にあるとの指摘もある。 本年度の研究では、MSA剖検例の橋核神経細胞核内のPML bodyについて、その変化と核内および胞体内封入体の有無との関連を蛍光免疫染色、共焦点顕微鏡にて観察するとともに、その3次元的な計測を行った。 MSAの5剖検例(男性3、女性2;年齢63-71歳、平均67.2 歳)および臨床病理学的に中枢神経系に異常を認めない正常対照の 5 剖検例(男性2、女性3;年齢:49-83歳、平均72.4歳)を対象とした。なお、本研究で選出、対象としたMSA剖検例の罹病期間は全例において3.5年以内である。この罹病期間を超えて長期生存し得たMSA剖検例では、本症でもっとも強く侵される部位のひとつである橋核における神経細胞脱落が高度であり、検索部の選定に解剖学的正確性を欠く恐れのあること、さらに、より早期の病態を反映した神経細胞の病理学を検討するには長期生存例は相応しくないと判断した。 MSA神経細胞では、PML bodyは核内封入体の存在により、類円系から棍棒状や線状に変化し、封入体と共局在する所見をはじめとし、多様な形態変化を呈していた。また、統計学的には、MSA 神経細胞の核の体積に占めるPML bodyの総体積は正常群に比し有意に減少していた。PML bodyのこれらの変化は、MSAの病態において、神経細胞核内の代謝機構の異常(減弱)が深く関わっていることを示唆するものと考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
多系統萎縮症の橋核を用いて、PML bodyとalpha-synuclein陽性胞体内及び核内封入体形成について検討し、PML bodyの多様な形態変化は、MSAの病態において、神経細胞核内の代謝機構にネガティブに深く関わっていることを示唆する知見が得られたことは評価に値することと考える。できれば、早期に本研究結果を英文論文として発表したい。
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今後の研究の推進方策 |
早期に上述のMSA研究結果を英文論文として発表したい。平成24年度は、筋萎縮性側索硬化症(ALS)について、運動神経細胞変性における核内小体(Cajal body)と胞体内TDP-43陽性封入体形成との関わりについて、MSAと同様に検討する。できれば、年度内に研究成果を英文論文にて発表したい。
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次年度の研究費の使用計画 |
○症例選択および標本作製 核内小体(Cajal body)について、我々の知る限り、ALS神経細胞において、その形態、大きさ、数などの解析の報告はみられない。平成24年度の研究では、age-matchedの正常対照症例群5例および対象疾患(ALS)5例選定し、腰髄前角細胞(下位運動ニューロン)(フォルマリン固定、パラフィン包埋、6um厚の標本を作製)について、核内小体(Cajal body)と胞体内TDP-43陽性封入体形成との関わりについて検討する。○二重免疫蛍光染色・三次元立体構築画像の作成・統計解析 ALS群では、monoclonal 抗リン酸化TDP-43抗体およびpolyclonal 抗Cajal body (coilin) 抗体を用いて、二重蛍光免疫染色を行う。共焦点レーザースキャン顕微鏡(LSM510)で観察し、個々の症例で核が出現した神経細胞30個ずつを撮影し、得られた共焦点画像をもとに三次元的形態計測ソフト(IMARIS: Bitplane AG, Zurich, Switzerland)を用いて、三次元立体構築画像を作成する。上記のごとく作成された神経細胞の胞体並びにCajal bodyの三次元モデルの体積はIMARISのオプションソフトであるMeasurementPro (Bitplane AG, Zurich, Switzerland) を用いて算出し、Cajal bodyが、TDP-43陽性封入体の有無、さらに陽性封入体の形態、大きさ、数などでどのように変化するかを明らかにする。種々の統計学的比較(対照群と疾患群間のPML bodyの総体積/核の体積や、多群間の多重比較等々)は、SPSSソフトにて、適切な検定法を用いて統計学的に解析する。
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