研究概要 |
筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis: ALS)の神経細胞内のユビキチン化細胞質内封入体の構成タンパクがTDP-43であることが明らかになって以降、TDP-43の機能解析が進んでいるが、その神経細胞死の機序はいまだ明確となっていない。TDP-43は核内タンパクであり、Cajal小体、PML小体など各種核内タンパクと共局在することがしられている。 本研究では、TDP-43とCajal小体の関連について、剖検脊髄を用いて検討した。孤発性ALS:5例、コントロール:5例の脊髄(腰髄)の6ミクロン厚の切片を抗TDP-43抗体及び抗Coilin抗体で蛍光2重免疫染色し、共焦点レーザ顕微鏡で観察した。 脊髄前角細胞中のCajal小体数の平均値は、コントロール5例:17.19+/-4.09、孤発性ALS5例:8.06+/-4.41であり、ALS例ではCajal小体数は減少していた。多重ロジスティック解析では、ALSの有無(odds ratio=0.212, P=0.001)と前角細胞面積(odds ratio= 1.001, P<0.001)が独立変数として有意であった。 孤発性ALSの脊髄前角細胞でCajal小体数が減少していた理由は(1)核内TDP-43の減少による一次的な可能性、(2)神経細胞の転写活性や活動性低下による二次的可能性があるが、今回の研究では十分に検討できなかった。Cajal小体は多機能なタンパク複合体であるが、主な機能はsmall nuclear RNAやsmall nucleolar RNAの成熟の場と考えられており、Cajal小体の減少はタンパク発現に影響を与えると推測される。また、神経細胞のviabilityとCajal小体数との関係も報告されており、Cajal小体の減少は運動神経細胞死に関与していると推測される。
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