研究課題/領域番号 |
23659186
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
北澤 荘平 愛媛大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (90186239)
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研究分担者 |
北澤 理子 愛媛大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (00273780)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | メチル化シトシン / 組織化学 |
研究概要 |
本研究は、遺伝子の特定部位、特に調節遺伝子 (promoter領域)に存在するCpG-islandや、ゲノム刷り込み現象に関与する部位のメチル化シトシンを、細胞や組織の形態を保ったまま(in situ)で検出する組織化学的手法を世界に先駆けて開発することを目指したものである。特定塩基配列のメチル化シトシンを認識するICONプローブと染色体上でのPCR (PRINS)法との併用による新たな病理診断手法により、腫瘍をはじめとする種々の病態発生に関与するエピジェネティクス変化を最も早期に検出できる検査法の開発を当該研究の目標として研究開発を行った。メチル化シトシン-標識グアニン複合体構造を有する二本鎖DNAをもとにPCR反応を染色体、細胞・組織標本上で行った。このいわゆるprimed in situ (PRINS) labeling法と呼ばれる方法は、現時点で単一遺伝子検出を行えるだけの感度を有しているが、染色体や細胞組織の固定条件や温度や湿度により影響を受け安定した結果が得られるに至ってはいない。そのため、目的とするメチル化シトシンを有するDNAと、プローブDNAとが二本鎖DNAを形成したときに想定される立体構造より、理化学研究所の岡本晃充独立主幹研究員らが開発した部位特異的DNAメチル化に対してメチル化シトシンとオスミウム酸により、錯体形成をするbipyridine-adenine標式プローブ (ICONプローブ 右図参照)をその最適な候補として計画して現在最適なプローブを選別中である。この中で、padlockプローブと呼ばれる管状構造を形成できるプローブを追加候補として計画している。最終的には常温増幅法とrolling cycle PCR法との併用による単一遺伝子を目的とした系の確立に向け条件設定を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
培養細胞を用いた予検討:in situ hybridizationに用いる細胞の固定条件を決定するために、種々の固定液、固定時間、固定後処理について検討が予定通りすすんでいる。最終的には、病理組織の固定に最も汎用されている10%ホルマリン固定、パラフィン包埋検体を用いた検出が可能となる条件を決定するための準備に入っている。メチル化シトシンは、これまでの私どもの検討(Lab Invest 2000, JBMR 2001, Cancer Science 2004)では、包埋後10余年を経過しても安定な状態で保存されており、過去に蓄積されてきた病理組織標本を用いた後向き解析が可能であると予想している。組織を用いたFISH法によるメチル化シトシン検出法の確立:細胞レベルでの予検討を元に、パラフィン切片を用いた組織への展開を行っている。通常のDNAを標的としたin situ hybridization法では、単一遺伝子の検出を蛍光物質によるFISH法で行うことが可能であり、現在このFISHのシステムは汎用化されつつある。メチル化シトシンを標的としたin situ hybridizationにおいても、このFISHのシステムを最終的に用いた検出方法の確立を目指して予定通り予検討段階に入っている。申請者等の教室では、長年にわたる分子雑種法の経験と施設を有しており、また平成18年度、基盤研究(B)にて導入したHybridizerを有効に活用することで、厳密な条件設定が可能であり、研究遂行において貢献している。平成22年度に作成予定の単クローン抗体を用いた抗体による検出と、PRINS法により合成過程でDNAを標式する物質(ジゴキシゲニンの予定)に対する抗体を併用し、更なる感度の向上を図り、単一遺伝子の検出を行う段階に来ている。
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今後の研究の推進方策 |
ゲノム上の特定部位におけるシトシンのメチル化状態が、in situで検出されれば、これまで解析が不可能であった、(1)ゲノム刷り込みと癌、(2)再生・リプログラミングにおける脱メチルかの機構、(3)発生初期におけるメチル化シトシンパターンの形成過程、および(4)非CpG-island領域のメチル化による遺伝子発現制御と病理病態との関わりなどの応用研究へと発展させることが可能である。これらの応用研究への発展を目指して臨床病理学的検討を進める。病理学教室や病理検査室に、過去に蓄積した病理組織を有効に活用することにより、多数の検体を短時間で検討することが可能である。組織におけるDNAは多くの核内蛋白質などとクロスリンクされているため、PRINS法には強い蛋白分解酵素処理が必要である。組織への損傷を最小とするために、detergentを含む溶液中で効果的にDNA-蛋白結合が解離する条件も同時に検討し、独自の病理診断技術として積極的に内外の学会や学術誌へ報告を行い、技術を広めるよう努める。
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次年度の研究費の使用計画 |
これまでに種々の科学研究費によって整備してきた設備で多くの研究をまかなうことが可能である。これは、当該研究が方法論的には、細胞培養、染色体標本の作製、PCR法、単クローン抗体の作製、in situ hybridization法、およびメチル化シトシンの探求という、申請者等が過去に行ってきた研究の組合せによってなされるためである。そのため、経費の多くは、成果発表、消耗品などに用いることを主体に計画している。但し、当該研究にのみ特化したものとして、PRINS法に使用する染色体標本の作製には、従来の方法とは異なり、厳密な温度湿度管理のもとで染色体をガラス面に広げたうえで乾燥する必要があり、初年度には備品費として高温恒湿器の購入を予定している。PRINS法に使用する特殊なプライマーはICONプローブを予定しており(理化学研究所岡本先生)、これらのプライマーや実験に用いるマウスの飼育、単クローン抗体を作成するのに必要な培養細胞の維持管理に年間予算として約300千円程度を見込んでいる。開発の過程で必要に応じて長崎大学医歯薬系大学院の小路武彦教授と研究の打ち合わせや、追試の依頼を行うことを予定しており、そのために、旅費を計上している。
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