微小乳頭癌 micropapillary carcinomaは,リンパ管侵襲が強く予後不良であるが,微小乳頭癌の形態的基盤となる分子機構は未だ不明であり,有効な治療法は現在知られていない。本研究では,肺腺癌の培養細胞40株について低付着性培養皿上で長期間(4ヶ月以上)培養を行い,微小乳頭癌のin vitro ならびにin vivoモデルの作製を行った。 40株のうち浮遊系で長期間培養可能な亜株23種類を得たが,うち14種の細胞において微小乳頭状の集塊形成が認められた。微小乳頭状の細胞集塊を縁取るようなMUC1の染色は,セルブロック法を用いた免疫染色にて確認した。長期浮遊培養で得られた亜株には,微小乳頭状の構造のほか個細胞性の癌細胞も観察され,これら個細胞性の細胞ではE-cadherin-cateninの発現低下がみられた。このような個細胞性の癌細胞は、培養細胞のみならず肺癌組織においても,微小乳頭状の癌に混在しており,微小乳頭状の細胞集塊と個細胞性の細胞が細胞基質間の接着低下によって誘導される一連の形態変化である可能性が示唆された。長期浮遊培養で得られた8種類の亜株については,NOD/SCID マウスの皮下あるいは胸腔内に移植し,腫瘍形成能,腫瘍の組織像を検討した。その結果,4種類の細胞において腫瘍形成能,脈管侵襲能あるいは浸潤・転移能の増強を認めた。微小乳頭構造を形成する細胞もin vivoにて確認された。さらに得られた亜株と親株を遺伝子レベルで比較することにより,分子標的になるような遺伝子異常の同定を現在も継続して行っている。
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