研究課題/領域番号 |
23659196
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
大場 雄介 北海道大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (30333503)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 分子標的治療薬 / FRET |
研究概要 |
当初の計画通り、BCR-ABLを発現するPh(+)急性リンパ球性白血病 [Ph(+) ALL] 細胞株を用い、薬剤処理後も高いFRET効率を示す薬剤耐性細胞を、セルソーターを用いて分取した。メチルロースセルロースを用いたコロニー解析を行い、薬剤耐性細胞が幹細胞の性格を有するか否かを検討したところ、薬剤耐性細胞における幹細胞の濃縮は認められなかった。次に、耐性細胞群と薬剤感受性細胞の遺伝子発現パターンをcDNAマイクロアレイで比較したところ、耐性細胞において発現亢進が見られる遺伝子を4528個、発現の低下する遺伝子を405個同定した。さらにこれら発現亢進遺伝子をアノテーションソフトで解析し、24の活性化シグナル伝達経路を得た。この24経路のうちメバロチン酸経路について詳細な検討を行なった。コレステロール合成経路であるメバロチン酸経路に対しては、その律速酵素HMG-CoAに対する阻害薬スタチンがすでに高脂血症治療薬として汎用されている。そこで、スタチンのPh(+)ALL細胞における細胞増殖及び細胞周期に対する効果を検討した。スタチンおよびイマチニブの単独処理は細胞増殖や細胞周期に軽度の影響を及ぼしたが、同時処理により有意な増殖抑制効果と著明なG2/M分画の減少とsubG1分画の増加を認めた。また、スタチン処理はイマチニブ耐性細胞の再増殖を著しく抑制することが明らかになった。一方、CMLで成功した分子標的治療薬の薬効評価を肺癌におけるEGFR阻害薬の効果予測法として応用可能かどうかについても検討中である。我々の開発したPicklesはEGFR活性モニターが可能であることが明らかになり、また阻害薬の耐性メカニズムとして知られるc-Metのシグナル伝達経路には影響されないことが明らかになった。よってPicklesは上記目的に使用可能なバイオセンサーであることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
耐性細胞の単離・解析については候補遺伝子の同定までを予定していたが、実際に標的とすべきシグナル経路が同定され、さらに耐性細胞に効果のある薬剤を見出すことが出来た。これは最終年度に達成を予定した内容であり、予定に対して大幅な進捗である。一方で診断技術の他疾患への応用については当初の予定通り1年間で1疾患について基盤の確立が達成された。
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今後の研究の推進方策 |
上記スタチンについては詳細な作用機序の解明とin vivoでの効果を検討する。また、他の23のシグナル伝達経路や、経路探索に含まれなかった遺伝子についても新規標的の可能性について探索する。また肺癌に対する分子標的治療薬薬効評価法を確立するとともに、他の疾患についての可能性を模索する。本研究を通じて、患者個々人の有する耐性細胞の特性まで考慮した「次世代テーラーメード医療」の実現に向けた基礎の構築を達成する。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度使用額なった経費は、本学の規定により3月分の人件費を4月に支給するために生じたものであり、研究計画の執行状況が変化したために生じたものではない。全体を通じて、本年度は予定通りに執行し、予定通りあるいはそれ以上の成果を上げることが出来たので、次年度についても当初の計画通り執行を行う。
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