研究課題/領域番号 |
23659204
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
竹屋 元裕 熊本大学, 大学院生命科学研究部, 教授 (90155052)
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研究分担者 |
坂下 直実 徳島大学, ヘルスバイオサイエンス研究部, 教授 (90284752)
菰原 義弘 熊本大学, 大学院生命科学研究部, 講師 (40449921)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | マクロファージ / 古典的活性化 / オルタナティブ活性化 / 天然化合物 / corosolic acid / STAT3 |
研究概要 |
マクロファージの活性化過程には古典的活性化(M1)経路とオルタナティブ活性化(M2)経路が存在し、活性化の違いが病態に影響を与えることが知られており、マクロファージの活性化を制御する化合物が明らかになれば、治療への応用が可能と考えられる。 今年度の検討では、まず保有する天然化合物ライブラリーの中からマクロファージのM1活性化を抑制する化合物のスクリーニングを行った。その結果、Isoquercetinなどの4種の化合物が、M2マクロファージマーカーであるCD163の発現を増強し、抗炎症性サイトカインであるIL-10の分泌を促進することが明らかとなり、マクロファージのM1活性化を抑制することがわかった。 一方、M2活性化を抑制する化合物としては、バナバ葉やリンゴ果実に含有されるトリテルペノイド化合物であるcorosolic acidがCD163の発現を顕著に抑制するとともに、M1マーカーであるIL-12およびIL-6の分泌を促進し、一方でIL-10の分泌を抑制することがわかった。M2マクロファージは腫瘍内浸潤マクロファージとして腫瘍細胞の増殖を促進する作用を有するが、corosolic acidは、グリオーマ細胞の培養上清によるマクロファージのM2活性化を抑制した。また、corosolic acidは、IL-10やグリオーマ培養上清によるマクロファージのSTAT3活性化を顕著に抑制したことから、corosolic acidはSTAT3の活性化を抑制することでマクロファージのM2分化を抑制することが示唆された。さらに、マクロファージのM2活性化を抑制する化合物としてcorosolic acid以外に、oleanolic acidやタマネギの新規抽出物であるonionin AがマクロファージのM2活性化を抑制することが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度の計画では、天然化合物のスクリーニングによって、マクロファージの活性化を制御する物質を同定することが大きな目標であったが、M2マクロファージのマーカーであるCD163の発現を指標として、CD163の発現を増強 (M1活性化を抑制)する化合物として、Isoquercetinなどの4種の化合物を同定することが出来た。一方、CD163の発現を抑制(M2活性化を抑制)する化合物として、corosolic acidやonionin Aを同定した。 マクロファージの活性化を制御する物質を同定できたことから、初年度としては、ほぼ妥当な成果が得られたものと考えている。一方、M1活性化を抑制するIsoquercetin等の化合物はその抑制作用が十分ではなく、動物モデルでの検索を実施するまでに至っていない。 その反面、corosolic acidは顕著なM2活性化の抑制作用を有しているため、M2活性化の抑制効果を利用して、M2マクロファージを介した腫瘍増殖の抑制効果を検証している。これまでのin vitroの実験で、マクロファージと腫瘍細胞の混合培養系では、corosolic acidによってマクロファージのM2活性化を抑制することによって腫瘍細胞増殖が抑制されることを観察しており、今後の展開が期待される。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、M2活性化を抑制する化合物であるcorosolic acidやonionin Aを主体として、その薬理作用を検討予定である。まず、化合物によるマクロファージ活性化の分子メカニズムを明らかにするため、マクロファージのM2活性化抑制の際の細胞内シグナル伝達経路の変化を解析する。 次に、担腫瘍マウスモデルを作成し、生体内における腫瘍増殖の抑制効果を検証する。この場合、腫瘍内へのマクロファージの浸潤の程度やそのフェノタイプ、新生血管の数や密度、STAT3等のシグナル伝達分子の活性化の状態などを検索し、M2マクロファージへの活性化抑制と腫瘍増殖抑制との関連性を明らかにする。さらに、腫瘍転移モデルを作成し、これらの化合物が腫瘍の転移を抑制するかどうかについても、検討を加える予定である。 一方、粥状硬化症や肥満を抑制する天然化合物のスクリーニングを継続して行い、現在までに同定したIsoquercetin等よりも、より顕著な作用を示す化合物の同定を目指す。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度使用額は平成24年度請求額と合わせて、上記の実験における物品費に使用するとともに、成果発表のための旅費、ならびにその他の費用に使用予定である。
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