心筋が虚血後に再灌流障害を受けると、アクチン・ミオシンの過収縮からなる収縮帯を伴う特徴的な壊死が生じる。サルコメアと細胞外基質をつなぐコスタメアは、収縮タンパクであるアクチンと細胞外基質の機械的連結を担うことから、カルシウム過負荷と相まってコスタメアが破綻すれば、サルコメア単位での収縮帯の形成が説明できる。私は、コスタメア構成分子であるβジストログリカン(β-DG)の局所的機能破綻が収縮帯形成の鍵を果たしているとの仮説を立て、以下の実験を行った。 新生仔Wistarラット(2日齢)から得られた初代培養心筋細胞に、β-DG cDNAにEGFP-cDNAを融合させた遺伝子およびLifeAct cDNAにRFP-cDNAを融合させた遺伝子を同時に導入することにより、β-DG-EGFPとアクチン-RFPを発現した心筋細胞を作成した。心筋細胞膜上のEGFP蛍光に対して近赤外超短パルスレーザー(波長850 nm、パルス幅80 fs、82 MHz)を用いて多光子励起分子機能阻害法(多光子CALI法)を施した。その結果、1.11±0.11 mJの照射により、局所的に収縮帯が形成することがアクチン-RFPの観察によって明らかとなった。この照射エネルギーを超えると細胞膜傷害により心筋細胞の構造が破綻した。一方、EGFP-cDNAのみを発現させた心筋細胞では、上記と同等の1.10±0.08 mJの照射により蛍光の退色は認められたが、収縮帯の形成は観察されなかった。 細胞膜上に発現するβ-DGを選択的に破綻させることにより、心筋細胞に収縮帯を形成することができた。本研究の結果は、心筋の収縮帯形成の機序としてこれまで広く受け入れられてきたカルシウム過負荷に加えて、アクチンと細胞外基質をつなぐコスタメアの関与を示唆するものであり、心筋の収縮帯壊死の発生機構を考える上で重要な知見が得られたと考える。
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