研究課題/領域番号 |
23659209
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研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
太田 伸生 東京医科歯科大学, 医歯(薬)学総合研究科, 教授 (10143611)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | マンソン住血吸虫 / セルカリア / 誘引行動 / センサー遺伝子 |
研究概要 |
マンソン住血吸虫の有尾幼虫・セルカリアが終宿主を関知して寄生侵入に至る行動の制御システムをin silicoで検索するとともにin vitroの機能解析システムを構築して幼虫の行動制御機構を検討した。同じ扁形動物であるプラナリアで解析された嗅覚センサー遺伝子の相同遺伝子の存在をマンソン住血吸虫ゲノムで検索した。その結果、sensor histidine kinase/response regulatorが相当する可能性を見いだした。住血吸虫セルカリアは水中で終宿主を関知して遊走して侵入すると考えられることから、哺乳動物表皮に存在する脂肪酸が遊走の誘引物質として機能している作業仮説を考え、ヒト表皮に検出できる各種脂肪酸を準備して住血吸虫セルカリアに誘導される生物学的な機能を検討した。その結果、マンソン住血吸虫セルカリアはリノール酸を感知することにより、終宿主への侵入に必要な様々な生物学的パラメーターが濃度依存性に変動することが判った。特に、10nM以上の濃度域でのリノール酸刺激によりセルカリアは有意な遊走行動を示し、同時にセルカリアの経皮侵入時に起こる尾部の離断現象が観察された。一方、他のC18脂肪酸であるオレイン酸やステアリン酸刺激に対してはセルカリアは明らかな反応を示さなかった。住血吸虫はRNA干渉(RNAi)による遺伝子発現制御が比較的容易におこる動物種であるが、従来のsoaking法によるRNAiには一定期間in vitroで培養する必要があるため、本研究で対象とするセルカリアには適用が困難であった。そこで新規の遺伝子導入装置を利用して中間宿主体内に存在するセルカリアにRNAiを起こす方法について検討した。抗酸化タンパク遺伝子を標的遺伝子とした場合、遺伝子発現抑制の効果が必ずしも十分でなく、安定してRNAiを誘導するための方法的検討がなお必要であった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の申請調書に記載した研究計画のうち、プラナリアの嗅覚センサー遺伝子の相同遺伝子の存在を検索し、当面の研究対象遺伝子について絞り込むことが出来ている。当該遺伝子の機能を確認するためには、遺伝子発現調節を行った個体を検討する事が望ましいが、住血吸虫を含む二生類吸虫の場合、複雑な生活史のため遺伝子ノックアウトの技法が応用できない。そこでRNAiの応用が考えられるが、住血吸虫のRNAiに従来から用いられてきたsoaking法がここでは応用困難であるため、新規の遺伝子導入システムを検討した。宿主動物体内に存在する対象動物にRNAi導入を行うことは容易ではないが、今年度の検討の結果、安定的ではないものの部分的な遺伝子発現抑制は観察可能であったことから、さらなる試行的実験によって問題の解決は不可能ではないと考えるに至った。 セルカリアの宿主への誘引を検討するin vitroの実験系の構築はほぼ予定したことを達成した。T字形のスペースからなる実験槽を作ることにより、特定の刺激に対するセルカリアの行動を判定量的に評価することが可能である。この実験装置を用いることにより、セルカリアの行動誘導にC18の不飽和脂肪酸であるリノール酸が特異的に関わっている現象が観察され、住血吸虫セルカリアの刺激センサーの標的物質としてリノール酸を特定する所まで進捗している。
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今後の研究の推進方策 |
概ね計画通りに研究が進んでいるので、基本的には申請調書に記した計画に沿って研究を進める。最も重要なステップはRNAiによる遺伝子発現抑制の系確立と、それを用いたセルカリアの機能改変の有無を検討する事になるので、セルカリアの段階でのRNAiの実験系確立を急いで進める。感覚センサーの標的を脂肪酸に絞って、その効果に関する観察データを蓄積しているので、候補遺伝子のノックダウンセルカリアを用いて、感覚センサーの責任遺伝子を同定する。最終的にはセルカリアの感覚センサーの機能改変を通じた二生類吸虫の感染予防の新規戦略の創出であるので、それについて一応の結論を得ることを目指す。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究の対象がセンサー遺伝子の機能解析に進むので、研究費は当初申請の記述内容と大きな変更はなく、遺伝子発現、タンパク発現などに解析に主眼をおいた支出が見込まれる。そのために各種遺伝子解析用試薬、タンパクレベルでの生化学的解析用試薬などを購入する。研究材料となるマンソン住血吸虫セルカリアを安定的に供給するために、住血吸虫生活史の保存のためにマウスを購入して研究を進める。成果発表のための国内または国際学会の出席旅費執行を予定している。
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