マラリアはPlasmodium属原虫の感染により引き起こされ、年間約3億人の感染者と約100万人の死者を出す世界3大感染症の一つである。特に熱帯熱マラリア原虫による被害は深刻であり、新規ワクチン・薬剤創成に向けたゲノム配列情報に基づく遺伝子機能解析が精力的に進められている。この熱帯熱マラリア原虫の遺伝子機能解析において外来DNA導入法は基盤技術である。しかし現在、熱帯熱マラリア原虫への外来DNA導入は赤血球に予めDNAを導入し、これに原虫を感染させDNAを取り込ませる間接的な手法(プレロード法)により行われており、導入効率が低いという問題点がある。この問題を解決するには導入効率が高い直接導入法を開発する必要がある。しかし導入に適した赤血球侵入直前の成熟したシゾントの調製が困難であることから直接導入法は確立されておらず未だ利用可能な技術とはなっていない。 本研究において、我々は成熟シゾントの大量精製法確立に成功した。さらに、この方法によって大量調整したメロゾイトに新たに開発した人工染色体を用いて直接遺伝子を導入することに成功した(直接遺伝子導入法の確立)。以上の成果は熱帯熱マラリア原虫の遺伝子操作技術を大幅に改善し、研究推進の迅速化を進め、研究領域全体のボトムアップに大きく貢献すると期待される。本研究の成果はまた直接導入法を用いたダブルクロスオーバー法による遺伝子改変原虫の作出をも可能とし研究領域全体への波及効果は極めて大きいと考える。
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