マウスの結腸がん細胞(Colon26)を用いて,このがん細胞のマウスへの定着を阻止する物質を探す方法を確立すること,また定着阻止に働く生物物質を探すことを目的とした。マウス結腸がん細胞にはLuciferase 遺伝子が組込んであり(Colon26Luc と略す)マウス体内においてがん細胞が生存・増殖していた場合,外部から基質(Luciferin)を注入すると発光するため,専用のカメラ(in vivo imaging system)を用いる事で光の強弱を捉える事ができる。がん細胞が増殖していれば,強い発光が観察される。 まずColon26Luc をマウス左心室へ注入(50万細胞/0.2ml)し,動脈血を通じてがん細胞を全身へ播種する方法を試みた。心臓への注射はしかしマウスにダメージを与えることとなり,注入後の心臓出血によると思われる死亡が50%程度みられた。注入に成功し,全身に播種された1個体を2週間観察したところ,腸管へ定着し増殖することが確認できた。しかし心臓への注射は死亡率が高いため実験系としては不適当であると判断した。次にがん細胞が腹腔内に播種された状況を再現できるものと考え,腹腔へ注入する方法を試した。当初は50万細胞/0.2ml の注射を行なっていたが,この条件だとマウスの衰弱が早く十分な観察期間をもつことができなかった。だんだん注射細胞数を減らし,1万細胞の注射という条件が最良であると結論した。この条件だと観察期間が3週間とれる。 がん細胞の定着・増殖を抑制する生物物質あるいは既知の薬物を検討した。蚊の唾液腺,ヒルの唾液成分,ヒルジン,ヘパリン,アスピリンなどを用いた。蚊の唾液腺やヘパリン,アスピリンには腫瘍抑制傾向を認めた実験もあったが,繰り返し実験を行なうと,再現性がなかった。すなわち研究期間中に腫瘍転移抑制物質を見つけ出すことはできなかった。
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