本研究は、再生医学に用いられる幹細胞の中でも比較的低侵襲で細胞が得やすい間葉系幹細胞(MSCs: mesenchymal stem cells)を用いている。しかし、再生を標的としているのではなく、ASCs自体の直接作用及び免疫学的調節作用を応用し、致死的難治性感染症の治療法としての有用性を明らかにすることを目的としている。具体的には、C57BL/6マウスの皮下及び内蔵脂肪組織をコラゲナーゼ処理し、Iscove’s modified Dulbecco’s medium (IMDM)+9%ウシ胎児血清+9%ウマ血清を用いて培養後、付着細胞をASCsとして使用した。本年度はエンテロトキシンショックマウスモデルを用いて、ASCsの投与効果を検討し、以下の結果を得た。 1. 黄色ブドウ球菌が産生し、スーパー抗原活性を有するブドウ球菌エンテロトキシンA(staphylococcal enterotoxin A; SEA)と大腸菌由来リポ多糖(lipopolysaccharide; LPS)を投与する30分前に100万個のASCsを経静脈投与すると、対照である脾細胞投与群と比べ、有意に致死率が低下し、治療効果が認められた。ASCsの投与効果はエンドトキシンショックでは認められなかった。 2. エンテロトキシンショック誘導マウスの血中及び脾臓におけるサイトカインを定量したところ、対照である脾細胞投与群と比べ、ショックの増悪因子として重要なサイトカインであるIFN-γ、IL-2、IL-6レベルが有意に低下していた。しかし、TNF-αレベルには変化が認められなかった。
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