サルモネラ胃腸炎後脳症、non-typhoidal Salmonella encephalopathyのマウスモデル作製にあたり、初めにネズミチフス症による脳症との区別ができる菌株の選定を行った。その結果、Salmonella感受性のC57Bl/6マウスを用い、腸管への定着率がよく、網内系への移行の割合も低かったSalmonella pathogenicity island 2欠損株であるS. typhimurium SPI2-を以後使用した。腸管からの菌のトランスロケーションを促すためマウスを低たんぱく栄養食で予備飼育後、S. typhimurium SPI2-株を10の8乗個経口投与し、3日後にセフトリアキソンを腹腔内投与するスケジュールを用いた。14日の観察期間中抗生物質投与直後を除き、便中から菌が回収され、腸管への定着がみられた。約半数では脾臓から、2割で肝臓からbacillary formの菌が回収された。網内系からbacillary formのサルモネラが回収されなった一部のマウスの脳から、サルモネラのL-formが回収され、同時にTNF-αのメッセージ発現、組織像で脳実質内に細胞の集積が認められた。感染初期に動きが鈍くなる個体も見られるが、網内系へのbacillary formの菌の移行が見られたマウス、脳でL-formが検出されたマウスのいずれにおいても異常行動は認められなかった。また血中CRPの上昇も網内系へ菌が移行したマウスを含めて認められなかった。L-formへの変換で遊離するLPSが脳内サイトカインストームを引き起こす可能性はあるが、本来マウスはLPSに抵抗では応答に乏しく、ヒト臨床例でも髄液中のLPSの検出が認められない症例が多い。L-formそのものが脳症発症に関与する可能性を確認し、脳症発症の手掛かりになる因子について検索していく。
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