研究概要 |
マウス・ラットの肺炎病原菌CARバチルスは、純培養ができず増殖や感染の機構は不明である。我々は本菌のラット分離株をVero E6細胞に加えてin vitro感染系を確立した。本菌は位相差顕鏡下で、培養細胞に付着・増殖する様態、そして細胞及び菌の死をリアルタイムに観察することができる。本研究は、本菌の細胞付着に関わる細菌側の分子候補を探索することを目的とした。 本菌のゲノム情報は16S rRNA遺伝子配列以外、全く知られていなかったため、昨年度に本菌のゲノムシークエンスを東京大学新領域創生科学研究科オーミクス情報センターの服部正平教授との共同研究として行なった。その際、培養細胞の上清を使うことにより本菌を培養細胞なしに単独で増殖させる条件を発見し、培養細胞ゲノムの混入がない高純度の菌ゲノムDNAを抽出して全長約140万塩基対のドラフトシークエンスを得た。 本年度はギャップクロージングと低クオリティ部分の再シークエンスを行い、最終的にCARバチルスの環状DNA完全配列を得ることができた(全長1,439,084塩基)。プラスミドは持っていなかった。MetaGeneAnnotatorを用いてオープンリーディングフレームを抽出し、nrデータベースを対象にBLAST解析を行ったところ、34のtRNA、1つのrRNAセット、約1,700のコード領域を確認できた。ほとんどのコード領域は既報の遺伝子との相同性が低く、CARバチルスは今までに解析された細菌ゲノムとは異なる独特のゲノムを持つと推定された。当初はRNAseqを行う予定であったが、参考にできる菌が見当たらないため、複数の培養条件における本菌の発現遺伝子を網羅的に比較することに方針を変更し、コード領域などの塩基配列からDNAチップをデザインした。今後、このDNAチップを使用して本菌の細胞付着分子に関する発現遺伝子の探索を進めていく。
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