インフルエンザウイルスのRNAポリメラーゼはゲノムの複製だけでなく、病原性や宿主域の決定にも関与し、ウイルス株間で非常に保存性が高い。よって、ウイルスポリメラーゼの機能を理解することで、ウイルスの増殖メカニズムを詳細に解明することができると考えられる。本研究では、ウイルスポリメラーゼの機能解明をめざした基盤研究として、化合物ライブラリーを用いた、 (1) ウイルスポリメラーゼの機能を阻害する候補化合物の探索、および (2) ケミカルバイオロジーに基づいた候補化合物の作用メカニズムの解明を目的とした。まず、インフルエンザウイルスポリメラーゼ三量体のうち、PB1-PAおよびPB1-PB2の結合ドメインの結晶構造をもとにin silicoスクリーニングを行い、約300万種の化合物ライブラリーの中から約300種類の機能阻害候補化合物を選定した。これら候補化合物について、野生型ウイルスを用いたプラークアッセイ法により感染阻害効果の評価を行い、感染阻害効果を示す化合物を数種類得ることができた。次に、リバースジェネティクス法により、ウイルスポリメラーゼにランダムに変異を導入した変異ウイルスライブラリーを作製した。これらの変異ウイルスを用いて、野生型ウイルスと同様に約300種類の候補化合物について感染阻害効果の評価を行った結果、野生型ウイルスと異なる阻害効果を示す化合物および変異ウイルスを単離することに成功した。本研究成果は、ウイルスポリメラーゼを標的とした新規抗ウイルス薬の開発に貢献し、新型および高病原性インフルエンザウイルスの脅威を取除くだけでなく、抗ウイルス薬を用いたインフルエンザウイルスの基盤研究の発展にも貢献すると考えられる。
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