生体にウイルスが感染して病原性を発揮する過程において、生体そのものにはこれら外来病原体の感染を抑止する分子群が備わっていることがHIV研究からわかってきた。ところで、HIVをはじめとするレンチウイルスは、マクロファージ細胞/単球細胞を自然宿主とする。この細胞への感染には、このウイルスに特有のアクセサリ遺伝子であるVpx/Vprが必須であり、これらの遺伝子がコードする蛋白質により排除されるウイルス抑制宿主因子(Restriction factor:以下RFと略す)が存在すると想定されてきた。H23年度は未知のRFを単離・同定するための実験を開始した。その時を同じくして複数の欧米のグループよりVpx結合蛋白質としてマクロファージ細胞/単球細胞に発現するSAMHD1が、抗HIV因子であるとの報告が相次ぎ、研究課題を急遽SAMHD1の作用機序の解析研究にシフトさせた。SAMHD1の抗HIV活性にはdeoxynucleoside triphosphate (dNTP) hydrolase活性が重要であり、細胞内dNTPプールが枯渇することによりHIVの逆転写過程が阻害される。そこで、このSAMHD1は、レンチウイルスに限らずDNAをその複製過程に合成するウイルスに対しては抑制的に働くと仮定した。代表的2本鎖DNAウイルスである単純ヘルペスウイルス(HSV)について解析実験をおこなった。その結果、SAMHD1の発現を低下させた骨髄細胞では、HSV の複製効率が増加すること、SAMHD1存在下でもヌクレオチドの添加により、dNTP プールを増加させるとウイルス複製が上昇することを見出した。この抗ウイルス活性は、分裂細胞ではほとんどみられないことより。細胞分裂が止まった骨髄細胞に特異的に作動する抑制因子であることが想定される。これらの作用機序をもとにした治療戦略が期待される。
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