再生医療、癌治療、遺伝子治療などの最先端の分野においてウイルスベクターが利用されている。また、特定の4種の転写因子を導入することにより、細胞を初期化し、iPS細胞を作出できることが明らかになっている。ウイルスベクターに複数種(4種以上)の転写因子の遺伝子を導入し、また、目的の細胞に特異的に感染させることができれば、その有用性は飛躍的に向上する。本研究では、多数の外来性遺伝子を搭載でき、また、標的とする表面抗原に対する抗体とを混ぜ併せるだけで、自由自在に目的とする細胞種へ感染(標的化)できるウイルスベクターを開発することを目的としている。 1)Fc受容体を発現する細胞を用いて、麻疹ウイルスの抗体依存的感染の可能性を解析する。 Fc受容体を恒常的に発現するBHK細胞に各モノクローナル抗体存在下で麻疹ウイルスを感染させ(実験を、効率的そして定量的に実施するためにレポータータンパクGFPあるいはルシフェラーゼを発現する組換え麻疹ウイルスを利用)、抗体依存的感染能を解析した。その結果、麻疹ウイルスが抗体とFc受容体を介して細胞へ感染できることを明らかにした。また、麻疹患者血清を用いても類似の効果が得られることを確認した。 2)多遺伝子搭載非増殖型ウイルスベクターの作成とiPS細胞の作製。 F遺伝子を恒常的に発現する細胞株をパッケージング細胞に用いてF遺伝子欠損(非増殖型)麻疹ウイルスベクターの作成に成功した。さらに、ウイルスゲノムを二本に分節化することにより、6種の外来性遺伝子(EGFP、Oct3、Glis1、Pin1、Klf4、Sox)を同時に搭載したウイルスベクターの作成に成功した。本ウイルスを用いて、何度もiPS細胞作成に挑戦したが、今のところ初期化遺伝子の一部の発現は確認できるが、iPS細胞の作成までには至っていない。
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