研究課題/領域番号 |
23659246
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研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
笠井 道之 徳島大学, 疾患プロテオゲノム研究センター, 講師 (10194705)
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キーワード | 胸腺上皮細胞 / 胸腺 / 胸腺微小環境 / サイモプロテアソーム / beta5tサブユニット / プロテアソーム |
研究概要 |
胸腺内の皮質および髄質上皮細胞サブセット上の自己抗原分子由来ペプチドとMHC分子との複合体は、T細胞の分化と受容体レパートリーを形成する上で重要なリガンドである。しかし、そのような各皮質および髄質上皮細胞サブセットにおける複合体形成の分子制御機構に対する理解はまだ不十分である。 前年度は、Doxycycline存在下でOct-4転写因子を発現する構造遺伝子を組み込んだトランスジェニックマウス胎児胸腺から上皮性細胞株(Oct4-TEC)およびbeta5t(胸腺皮質上皮細胞に特異的に発現するプロテアソームサブユニット)の発現をコードする領域に緑蛍光タンパク質(venus)をノックインしたアレルを持つトランスジェニックマウスのヘテロ接合体マウス胎児胸腺から上皮性細胞株(b5t-TEC)を作製した。本年度はそれらの細胞株が胸腺微小環境の構築することができるのかを検証した。 Oct4-TECはDoxycycline存在下でOct-4を発現し脱分化型の表現系を示す一方で、非存在下ではその発現量が低下し胸腺上皮細胞マーカーであるFoxn1分子の発現量が増加する。Oct4-TECをbeta5tノックアウトマウスの胎児胸腺ストローマ細胞と混合し細胞塊を形成した後に、正常マウス腎臓皮膜下に移植し、4週以降に開腹し、腎臓皮膜下に存在する胸腺の微小環境構造を調べた。しかし、b5t-TECと胎仔胸腺ストローマ細胞で凝集培養した後腎臓皮膜下に移植した場合は腎臓の皮膜下に明瞭な胸腺が再構成されたが、Oct4-TECを混合し再構成した場合は胸腺の再構成を認めることはできなかった。 胸腺上皮細胞を凝集培養した場合は単層培養した場合よりも、Foxn1分子などのmRNA量の低下を抑制できることを見出したので、凝集培養法でFoxn1分子の発現量を調節しすることによりOct4-TECを用いて胸腺再構成を再度試みたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
マウス胎児胸腺からDoxycycline存在下で脱分化型の表現系を示す髄質部由来胸腺上皮細胞株及び皮質部上皮細胞特異的分子マーカー(beta5t,CD205など)を発現する皮質部由来初代胸腺上皮細胞株(b5t-TEC)をそれぞれ作製することができた。しかし、Oct4-tgマウス胎仔胸腺から樹立した培養細胞(Oct4-TEC)を用いた腎臓皮膜下での胸腺再構成はこれまで成功していない。 一方、胸腺上皮細胞を単層培養した場合、Foxn1分子をはじめbeta5t分子、Aire分子など機能上重要な分子のmRNA量の著しい低下する。このmRNA量の低下は胸腺をトリプシン等で消化した直後から一時間以内の間に起こることが判明した。しかし、既に報告されているように細胞凝集塊を作りことによりこの急速な低下を防ぐことできることも確認した。単層培養した場合に胸腺機能性分子、特にFoxn1分子の発現レベルが著しく低下することも判明したので、現在、培養細胞のFoxn1分子発現レベルを維持または増加できる可能性のある凝集培養を試みている。加えて、腎臓皮膜下での胸腺再構成程度を検証するために胸腺機能性分子の一つであるbeta5t分子に対するモノクローナル抗体とサイモプロテアソームに対するモノクローナル抗体をそれそれ作製している。 以上の実験が継続中であることを考えて、”やや遅れている“と自己評価した。
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今後の研究の推進方策 |
25年度については以下の2つの研究に焦点を絞り研究を進める。 1.マウス胎児胸腺からDoxycycline存在下で脱分化型の表現系を示す髄質部由来胸腺上皮細胞株(Oct4-TEC)及び皮質部由来初代胸腺上皮細胞株(b5t-TEC)を凝集培養し、胸腺皮質上皮細胞および髄質上皮細胞に関する形態分子マーカー分子の発現と機能分子マーカーFoxn1分子の発現を調べる。さらに、それら細胞株と胎仔胸腺ストローマ細胞とを凝集した後に腎臓皮膜下に移植し胸腺皮質あるいは髄質上皮細胞に再び分化し、胸腺微小環境を再構築することが可能なのか、さらに、胸腺T細胞の増殖と分化(レパートリー形成)対して機能的に作用するのかを検証する。 2.胸腺微小環境の構築と胸腺T細胞の分化とレパートリー形成に機能的に作用することが検証された胸腺上皮細胞株を用いて自己抗原分子の発現制御機構と抗原提示制御機構の解析を行う。特に、自己抗原分子の発現制御、そのプロセッシング、およびそれに由来する自己ペプチドとMHC分子との複合体形成の制御機構に関与する分子についての解析を進めると共に、免疫応答誘導と制御におけるその分子の免疫学的な重要性を胸腺器官培養法で検証する。
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次年度の研究費の使用計画 |
25年度は以下の計画で研究を進める。 1.Oct4-TECおよびb5t-TECを凝集培養し、胸腺皮質上皮細胞および髄質上皮細胞に関する形態分子マーカーと機能分子マーカーの発現量を定量的PCR法で調べる。 2. それらの細胞と胎仔胸腺ストローマ細胞とを用いて凝集塊をつくり、これを腎臓皮膜下に移植し、胸腺を再構築する可能性を免疫組織染色法で解析する。再構築されている場合は、その再構築胸腺内でそれらの細胞株がT細胞の増殖とpositive selection 及びnegative selectionを支持する機能を有する可能性についてセルソーターを用いて解析する。 3.腎臓皮膜下における胸腺再構成の程度を詳しく調べる目的で抗beta5tモノクローナル抗体あるいは抗サイモプロテアソームに対するモノクローナル抗体を作製する。beta5tノックアウトマウスに正常胎児胸腺を免疫し、所属リンパ節のリンパ球とミエローマ細胞とを融合し、抗体産生能を有するハイブリドーマ細胞を得る。 以上の研究のうち3番目の計画はb5t-TECを分離とその機能を維持する培養に重要なツールなので本年度の経費の60%程度を抗原発現ベクター作製と抗原ペプチド作製に費やす予定である。残りの40%についても実験計画の1と2および情報収集・交換のための学会参加に費やす。
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