研究課題/領域番号 |
23659248
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
伊藤 道哉 東北大学, 医学(系)研究科(研究院), 講師 (70221083)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 生命維持治療中止 / 立法化 / 社会的影響 |
研究概要 |
わが国では「積極的安楽死」の要件、生命維持治療、中でも人工呼吸療法の中止については法的根拠がないままである。そのため、病院等の倫理委員会としても判断を下せない状態が続いている。本研究では、放置されている「積極的安楽死」の要件をきちんと整理し、従来延命治療として一括されていた「人工呼吸療法の中止」を、積極的安楽死として捕らえなおすことで、医療現場の整理が図られる可能性を探求する。さらに「生命維持治療中止」および「積極的安楽死」を立法化した場合の医療者への影響について、政策判断の根本資料を得ることを目的としている。 本年度は、(1)生命維持治療の中止に関する、内外の状況について文献等を網羅的に収集、生命維持治療中止法制化の影響をドイツ、スイス(バーゼル州、チューリヒ州)を中心にとりまとめて考察し、日本緩和医療学会学術総会長よりの依頼で「緩和ケアにおける倫理的諸問題 事前の意思表示によって生命維持治療を中止できるか」として発表した。(2)予備調査研究として、法律家で生命倫理に造詣の深い専門家100名を対象とした、筋萎縮性側索硬化症患者の事前の意思表示にもとづく人工呼吸療法中止の可否に関する調査の記述17名分を質的に分析した。回答の中で最もユニークな意見は、「例外的に違法性を阻却されると考えるべきでなく、濫用防止の観点から合法化のための一定の手続要件を法律等で定めることで、むしろ正当業務行為と解すべきである」との見解であった。この点に関し法律専門家らとの検討の結果「東海大学安楽死事件横浜地裁判決は、傍論(法的には先例的な価値がない)であり、判例上、違法でないとした終末期判断はない。厚生労働省終末期のガイドラインと、これを意識した最高裁判決を参考に、要件(実体要件と手続要件)を考えることが、生産的と考えられる。」との解釈に落ち着いた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
1)調査対象医療施設が大震災の影響を受け、施設が壊滅したり、閉院、休診等で、さらには、医師等の退職により調査に協力できない場合が想定され、回収率が著しく低下すると推定される。また、現時点で調査をした結果が、日本全国の病院における平時の状況を的確に反映しない可能性がある。ちなみに厚生労働省の病院報告(全国の病院と療養病床を有する診療所の患者数や病床利用率などを集計)について、集計が始まった1954年以降初めて、2011年3月分、4月分、5月分とも報告がなされなかった施設が発生、さらに診療休止中と報告した施設があり、厚生労働省は「東日本大震災の影響による病院報告(月報概数)の集計・公表の取り扱いについて」を発令、医療施設全体の傾向把握が困難との見解を明らかにしている。2)本研究は、「生命維持治療中止」および「積極的安楽死」の要件、さらには、要件を立法化した場合の社会的影響について、病院等医療施設の管理者・倫理委員会を対象にした調査によって明らかにすることを目的とするが、大震災下、医療機関では、救命、生命維持が第一であり、治療中止に関する調査自体が敬遠される可能性も考えられ、回収率の低下もあいまって、現時点で得られた調査結果が平時の状況を的確に反映せず、誤った結論につながりかねない憂いがある。3)大震災の影響がいまだ強く残る状況下での、「生命維持治療中止」等に関する、医療施設に対する調査の実施を思いとどまり、1年以上経過したあとで慎重に実査を行うことで、よりバイアスの少ない調査結果に基づく提言を行うことができると考えられる。以上より、研究計画を再構築し、調査実施を2年目に行うこととした。
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今後の研究の推進方策 |
東日本大震災の影響を受けて延期をしていた医療機関への調査研究を実施する。病院、在宅療養支援診療所を一気に調査する。病院管理者(病床規模別、抽出)を介し、倫理委員長あて、調査票(郵送自計)によるアンケート調査を実施する。調査票の設計は、研究代表者伊藤が、専門家と協議の上行う。(1)以下の仮説を調査研究により明らかにすることで、研究目的を達成する。[仮説1]在宅医療に取り組む診療所では「積極的安楽死」「終末期における人工呼吸療法の中止」の問題に対する対応できている。[仮説2]「積極的安楽死」「終末期における人工呼吸療法の中止」を立法化した場合、メリットがデメリットを上回ると考える専門職が多い。(2)実態の把握により研究目的を達成する。病院以外における看取りが推進される中で、在宅医療における積極的安楽死」「終末期における人工呼吸療法の中止」の実態について検証する。在宅終末期医療における倫理問題の解決を図る宅終末期委員会の実態を把握するために、平成24年度、在宅療養支援診療所管理者(12000施設より特に看取りを熱心に行っている200施を設抽出)に対して、調査票(郵送自計)によるアンケート調査を実施する。 上記成果を活かし、終末期医療の質の向上に資する、「積極的安楽死」「終末期における人工呼吸療法の中止」のあり方について提言を行う。その際、法律家、倫理学者等、医学の専門家以外の有識者からも、専門的知識の提供を受け、内容のさらなる精緻化を図る。さらに、「積極的安楽死」「生命維持治療の中止」に関する立法化が、在宅終末期医療の質的向上に与える影響を明示する。そして、在宅における終末期医療の質の向上に資する、「積極的安楽死」「終末期における人工呼吸療法の中止」のありかたついて具体的提言を行う。研究の成果は、報告書、学術雑誌等により公表し、社会に還元する。
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次年度の研究費の使用計画 |
東日本大震災の影響を受けて延期をしていた医療機関への調査研究を実施する。前年度の繰り越し研究費を調査費用等に当て、所期の目的を達成する。 調査票の内容を吟味、確定するため、医学者、法律家等医学以外の専門家との研究打合せに旅費、会議費を要する。調査票を印刷・郵送するための、消耗品費、印刷費、通信費を要する。 調査結果を入力、整理するための研究補助費を要する。調査結果を保存、整理するため、ハードディスク、USBメモリー等消耗品を必要とする。また、データ解析用のハイスペックノートパソコンに費用を要する。分析結果の解釈について、医学者、法律家等専門家との研究打合せに旅費、会議費を要する。成果を公表するため、成果発表旅費、および報告書を印刷する費用を要する。
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