わが国では「積極的安楽死」の要件、生命維持治療、中でも人工呼吸療法の中止については法的根拠がないままである。本研究では、十分な議論がなされないまま、放置されている「積極的安楽死」の要件をきちんと整理するとともに、従来延命治療として一括されていた「人工呼吸療法の中止」を、積極的安楽死として捕らえなおすことで、医療現場の整理が図られる可能性を探求する。 ①調査研究。筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者について、コミュニケーションがとれない状況が持続した場合事前指示書による呼吸療法中止の意思を表示をしているモデルケースと、一般論としての人工呼吸(換気)療法の中止の可否について、神経内科医と、生命倫理に詳しい法律家、ALSのコミュニケーション支援に関する知識を有する情報工学の学生に対して調査を行った。いずれも相手方の同意を得て匿名の調査を実施した。モデルケースについて人工呼吸療法を中止するとの医師の回答は28.3%、中止せず維持するは63.3%であった。一方、一般論について人工呼吸療法中止可能とする医師は66.7%、中止せず維持するは、23.3%であり、モデルケースと一般論で回答が大きく逆転した。モデルケースで、人工呼吸(換気)療法中止可能とする法律家等は70%、中止せず維持すべきは18%であった。情報工学を専攻する学生では、モデルケースで、呼吸療法の中止について違法は29%、違法でない71%、一般論では、違法34%、違法性阻却可能57%、その他9%であった。 ②質的研究。わが国の終末期医療に関するガイドライン等、諸外国の最新の情勢について総合的に分析するとともに、上記①の調査結果をふまえて、尊厳死法制化を考える議員連盟の「終末期の医療における患者の意思の尊重に関する法律案」(仮称・未定稿)をたたき台として、有識者、当事者団体、有志学生と生命維持治療中止法制化の社会的影響を検討した。
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