研究課題/領域番号 |
23659250
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研究機関 | 群馬大学 |
研究代表者 |
清水 宣明 群馬大学, 医学(系)研究科(研究院), 講師 (70261831)
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研究分担者 |
脇坂 浩 三重県立看護大学, 看護学部, 准教授 (80365189)
片岡 えりか 三重県立看護大学, 看護学部, 助手 (50549293)
村本 淳子 三重県立看護大学, 看護学部, 学長 (50239547)
星野 洪郎 群馬大学, 名誉教授 (00107434)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 流行解析 |
研究概要 |
三重県多気郡明和町立下御糸小学校(児童数約160人、1学年1学級)における2009年のパンデミック新型インフルエンザ(A(H1N1)pdm09)の流行過程を、児童の健康記録と保護屋へのアンケートをもとに調査・解析した。調査した項目は以下の通りである:(1)児童ひとりひとりの欠席日時と期間、(2)発症を認識した症状、(3)発症前後の行動、(4)医療機関での診断、(5)家族の発症状況、(6)学校と家庭における感染防御対策の実施状況、(7)流行に対する情報取得方法、(8)流行時に心理、(9)ワクチン接種、(10)その他。得られた情報を解析し、流行の進行経過のダイヤグラムを作成した。流行は急激な拡大ではなく、約3か月間にわたって徐々に進行し、途中で小規模なアウトブレークの可能性がある同時多発発症が起こっていたことを見出した。学級閉鎖は流行進行にインターバルをもたらしたが、流行そのものを終息させる効果はなかったこともわかった。また、学校でも家庭でも、マスク、手洗い、うがいなどの標準的な感染防御策が徹底して実施されたにもかかわらず、最終的な感染率は約50%に達したことも明らかになった。アンケートの結果からは、ワクチンの効果や副作用についての不安が解消されていないことが浮かび上がった。これらの結果について、教育関係者、児童、保護者、地域住民、行政関係者への説明会を実施し、日本環境感染学会と日本衛生学会で報告するとともに、日本環境感染学会学会誌に論文として発表し、注目を集めた。インフルエンザの実際の流行の場は地域であるため、その対策のためには、地域密着の研究が不可欠である。インフルエンザ流行対策に関してこのような継続発展的な研究を実施しているところは、この町と小学校しかないため、全国のモデルとして情報発信していきたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
地域でのインフルエンザ感染制御のためには、感染履歴が少ないために感受性が高い年少者が集団で狭い空間に長時間生活する小学校が、ひとつのポイントと考えられている。そこに持ち込まれた感染は大きく増幅したのち、地域に拡散する可能性があるからである。しかし、末端の地域での流行の仕組みに関する研究は非常に少なく、そのために対策は具体性を欠いて理念的なものになりがちである。この現状を改善するために、本研究では特定の地域社会に対策研究の拠点を創設し、地域の自主性によって詳細な流行研究の実施を目指している。初年度は、比較的小規模な下御糸小学校に拠点を置き、そこでの新型インフルエンザの流行経過を詳細に解明することで、教育関係者、児童、保護者、地域住民にインフルエンザ対策研究の必要性のその目的と意義を自覚してもらうことを目指した。この町は地域活動が非常に活発であるため、最初から学校関係者も保護者も研究の必要性を認識して、研究に積極的に協力してくれたため、詳細な情報を取得して解析し、流行の姿を明らかにすることができた。このような研究の取り組みは日本でも非常に少なく、学会でも論文でも注目していただくことができた。また、研究の考え方や経過を、「インフルエンザ」誌(メディカルレビュー社)に連載中である。下御糸小学校では、現在、2011年度の冬の流行についての解析が進められている。また、下御糸小学校での本研究に刺激を受けた町立明星小学校からも、研究への参加の希望を受けて、現在、計画を立案中である、以上の状況から、本研究の本年度の目標は、おおむね達成されたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
三重県多気郡明和町立下御糸小学校におけるインフルエンザ対策研究は、平成21年度の新型インフルエンザの流行解析結果が、教育関係者、児童、保護者、地域住民、行政関係者の注目と関心を呼び起こし、それが今年度にもつながっている。現在、平成23年度の冬の季節性インフルエンザ流行の児童発症記録を解析中である。その結果が出次第、地域説明会を実施するとともに、児童へのインフルエンザ授業を行う予定である。今年度は、新型インフルエンザとその後の季節性インフルエンザの流行の解析結果を基にして、以下のような介入研究(前向き研究)を実施する予定である:(1)児童の標準的感染防御法の意識や行動の工夫、(2)家族の知識や意識や行動の工夫、(3)学校における活動の工夫、(4)地域活動の工夫、(5)その他。また、同町立明星小学校(児童数約300人、1学年2学級)においても、インフルエンザ対策研究をあらたに開始することが決定した。本年度は、平成23年度冬に明星小学校が自主的に記録した児童の罹患記録を解析して、教育関係者、児童、および保護者がともに学ぶことで対策の必要性を考えるとともに、この冬に予想される流行の記録と介入研究について計画を作成して実施する。インフルエンザ流行の地域対策研究は、非常に手間がかかるにもかかわらず、すぐに成果が見えてこないために、地域の継続的な協力を得ることが難しい。しかし、流行を自然災害対策と位置付けて研究を推進していくことで、地域の自主性と持続性を引き出していく。成果をつとめて外部に情報発信し、小さいながらも対策研究モデル地域としての役割を果たしていきたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究では、教育関係者、児童、保護者、地域住民、行政関係者などに集まっていただいて、成果を発表したり、研究の方針や方法を議論することが多い。そこで平成23年度においては、アンケートリアルタイム集計装置(ソクラテックナノ)購入したが、経費に限りがあり、端末の台数を十分に確保できなかったので、本年度は増設して実際に使用できる状態にしたい。また、地域の会合ではプロジェクターを使用して資料の映写を行うと効果的であるが、装備していない場所が多いので、ポータブルプロジェクターを購入したい。同時に、映写用のポータブルなスクリーンとレーザーポインターもあわせて購入して使用したい。
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