研究課題/領域番号 |
23659250
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研究機関 | 群馬大学 |
研究代表者 |
清水 宣明 群馬大学, 医学(系)研究科(研究院), 講師 (70261831)
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研究分担者 |
脇坂 浩 三重県立看護大学, 看護学部, 准教授 (80365189)
片岡 えりか 三重県立看護大学, 看護学部, 助手 (50549293)
村本 淳子 三重県立看護大学, 看護学部, 学長 (50239547)
星野 洪郎 群馬大学, その他部局等, 名誉教授 (00107434)
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キーワード | インフルエンザ / 流行対策 / 地域 / 小学校 |
研究概要 |
三重県多気郡明和町の下御糸小学校(児童数約300人)と明星小学校(約150人)において、平成23年度冬季(平成23年12月~24年3月)のインフルエンザ流行経過を記録し、解析した。学校長および養護教諭から児童の家庭に向けて事前に記録用紙を配布し、発症日時、発症直前および発症時の症状、前後の行動、体温、診断、家族の発症の様子などを記入してもらい、児童の回復後に提出を受けた。 下御糸小学校では、平成23年12月初旬からA型発症児童が出始めたが、同中旬までで一旦停止した。平成24年1月下旬からふたたび流行が開始し、2月中旬まで継続して終息した。その間、比較的小規模のアウトブレイクが起こった。続いて2月下旬からB型の流行が始まり、3月下旬まで続いて終息した。明星小学校においても流行経過はほぼ同じで、2月中旬を境にしてA型とB型がほぼ完全に分離した。ただ、明星小学校では、平成23年12月の流行はみられなかった。期間を通しての児童の罹患率は、下御糸小学校が51.0%、明星小学校が21.6%であった。 明確な発熱と体調不良をみる前に、咳、のどの痛み、鼻水などの上部呼吸器症状があった児童が、両校ともに6割以上であった。潜伏期間を3日間、欠席が推奨される発症後5日までを感染源になると仮定すると、発症児童の約4割が児童間感染による可能性があったが、再登校後の児童からの感染の可能性は1例のみだった。ワクチン接種による有意な発症率低下は観察されなかった。 小学校では、発熱などで発症が明確になる直前の咳などによって感染が拡大している可能性が示唆され、「うつさない、うつさない」対策の上手な実施と効果解析の必要性がある。同町では対策研究実施小学校が次年度には3校になる。児童の家庭や居住地域の感染動態を解析し、インフルエンザ流行の地域対策に資する有効な手段を見出したい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究の実施場所である三重県多気郡明和町には、町立の小学校が6校ある。本研究開始時(平成23年度)には、インフルエンザ流行対策研究を実施する小学校が下御糸小学校1校のみであったが、そこでの結果や本研究の学会等での発表を知ることによって、次年度(本報告の対象年度である平成24年度)には、明星小学校が加わり2校となった。さらに、平成25年度(本研究の最終年度)においては、3校に増える予定である。 研究代表者は、対象小学校やその地域における研究結果の報告会や、すべてのクラスでの定期的なインフルエンザ教育授業を実施していることもあって、本研究の方法や意義が少しずつ地域に知られるようになってきた。それらのことから、インフルエンザ流行に際しての家庭へのアンケート調査などにも、積極的かつ主体的に協力していただけるようになった。本研究の対外的な発表(学会、論文、講演等)では、町長、教育長、PTA会長等の許諾と推奨によって、町名、地域名、学校名などをすべて実名公表しているが、現在までに、プラバシーや研究内容とその扱いについての批判的な問い合わせや苦情はない。 以上のような研究環境の整備によって、児童の個人単位での感染と発症の解析が可能となり、その結果、発症が明確となる直前にひとつの重要な流行制御ポイントがあることを突き止めることができた。今後、事例数を増やし、さらに詳細な流行経過の解析を行うことで、有効な流行制御の方法を見出せる可能性が出てきた。 以上のように、インフルエンザの地域流行制御を目指した継続的な研究・実践基盤を育成し、確立していく取り組みが、地域住民の理解と主体的な参加によって予想以上に順調に進行している。最終年度の更なる発展が期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の最終年度に当たるので、以下の項目についてまとめの研究を実施し、次段階の研究への発展的に引き継ぐ。 1.【地域の小学校におけるインフルエンザ流行対策研究基盤の確立】この2年間の本研究によって継続的に流行解析を実施することが可能になった三重県多気郡明和町のふたつの小学校(下御糸小学校、明星小学校)において、これまでの2年間の研究の経験とその成果を踏まえて3年目の流行の解析を実施することで、研究継続の意識と仕組みを定着させる。 2.【より詳細な流行解析の実施】小学校におけるインフルエンザの流行経過とその仕組みを明らかにするために、児童とその家族の発症前から治癒に至るまでの経過(行動、症状、意識、情報、診断、治療等)を、より網羅的かつ詳細に記録して解析する。これらは、事前に家庭に配布された質問紙法による。 3.【地域住民への研究成果の公表と協力の拡大】小学校で得られたインフルエンザ流行についての情報や研究成果を、保護者や地域住民に対する説明会や勉強会を開催して周知を図ることで、小学校児童とその家族に限定していた研究対象を、その小学校の校区の住民へと拡大していく基盤を育成する。これは、平成26年度からの研究を可能にするための基盤作りである。 4.【具体的な感染制御対策の実施とその効果の解析】これまでの研究から、インフルエンザの発症が明確となる直前の前駆症状で感染が拡大している可能性が高いことが明らかになったため、その察知と情報共有の仕組みを確立し、「うつさない、うつらない」防御行動の実施の効果を解析する。 5.【対策研究実施地域の拡大】インフルエンザ流行は地域社会の人間関係によって起こす社会現象である。次年度から対策研究実施校がひとつ増えて3校になるので、地域間の動的な人間の動きの関係も研究項目に入れながら、町全体を対策研究地域として確立することを目指した研究広報活動を実施する。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度は本研究の最終年度にあたるために、今までの成果を地域のインフルエンザ対策に実際に活かしていくことと、それ以降の発展的継続(町全体をインフルエンザ対策研究の継続的な実施地域として確立するとともに、実際の流行制御の取り組みの実施) に取り組みこととなるため、以下のように研究費を使用をしたい。 1.【地域への情報発信機材の購入】地域の流行制御対策に資する成果が出てきたので、地域住民への啓蒙教育のための説明会や勉強会を数多く開催することが可能となったため、そのための必要な機材(現在、所有していないために不便であるもの。または、地域でそのような機材を所有していないために、研究者側が用意する必要があるもの)を購入する(プロジェクター、スクリーン、レーザーポインター、モバイルパソコン、プリンター、およびそれに付随する消耗品)。 2.【成果の対外的な発表】地域の小学校における継続的なインフルエンザ対策研究基盤が確立しつつあり、そこでの研究成果も多く出てきているので、国内学会、研究会、講演会などで、できる限り多くの対外的な発表を行い、今後の研究発展のための様々な機関や人材との協力関係を構築する必要があるので、そのために出張旅費等に用いる。また、研究成果の論文発表のための投稿料と別刷料に用いる。 3.【その他】地域における研究成果の説明会や勉強会などの開催のための会場使用料に用いる。
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