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2011 年度 実施状況報告書

医師の説明義務違反に影響を及ぼす因子の定量的解析及びその臨床応用

研究課題

研究課題/領域番号 23659254
研究機関金沢大学

研究代表者

越後 純子  金沢大学, 大学病院, 准教授 (80579665)

研究期間 (年度) 2011-04-28 – 2014-03-31
キーワード説明義務 / インフォームドコンセント / 医療過誤 / 慰謝料 / 統計学的解析 / 裁判例
研究概要

医療現場においてインフォームドコンセントが重要視されるようになったことを反映し,医療訴訟において,インフォームドコンセントの前提となる説明義務違反が争点となることが増加し,医療に過誤がなかったと判断されても,説明義務違反で医療機関が敗訴する例がある。裁判例は個別の事例であるため,他の事例への応用範囲が分かりにくいという欠点がある。本研究の目的は,裁判において,説明義務違反が認められやすい要因,高額化しやすい要因を統計学的に解析し,個別事例の枠を超えた傾向を実際の医療現場に反映することにより,適切なインフォームドコンセントの実現に資することである。 本研究の平成23年度の成果としては,平成12年以降約10年間にわたるデータを統計的に解析し,説明義務違反を認める要素として最も重要なものは,治療の必要性,緊急性であることが統計学的有意差をもって判明した。他方,今回の研究では,当初医療行為によって生じた結果の重大性が説明義務違反による損害賠償を決する最も大きな要素となるのではないかと予測していたが,現段階で統計学的な有意差をもっては認められていない。 すなわち,従前,個別裁判例の評釈という質的研究によっていた領域において,美容整形や予防的治療のような不要,不急の治療に関しては,高度な説明義務が要求され,説明義務違反が認定される頻度が高くなっている反面,がんや救急疾患等では説明義務違反が認められる頻度は低くなっていることが,定量的に立証された。 これらの結果は,今後臨床現場で,定量的データによる裏付けられたインフォームドコンセント実現に寄与するものと期待される。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

平成12年以降の約10年分の裁判例につき,市販の裁判例データベースを用いて,説明義務違反が争われた裁判例データ約400件を抽出し,統計解析ソフト(IBM社製 SPSS)を用いて解析を行った。現段階の達成度は、当初予定した、訴訟において、説明義務違反の認定を左右する影響因子の解析は概ね終了した。 その結果,説明義務違反の認定に当初予想した患者の「治療結果(死亡・後遺症等)」は影響があるとはいえず、他方、治療の「必要性,緊急性」が影響していることが統計学的有意差をもって判明した。当初の予測では,治療の結果,死亡・重大な後遺症が残った事例で,医療行為として過失が認められなかった場合に慰謝料として説明義務違反が認められているのではないかというものであった。予想と結果は異なっていたものの、従来定量的な解析が行われてこなかった法律領域において、判決に影響を与えている因子を統計学的に抽出するという目標は達成されている。 医療と法律にまたがる研究領域は、実務上の必要性があるにもかかわらず、研究領域としては未開拓である。その理由は、統計学的手法を主体とする医学領域と、理論体系を重視する法学では研究手法が異なっているためである。しかし、事例の蓄積という点では共通点があり、統計学的な手法の導入は可能であると考え、挑戦したのが本研究である。 発表については、既存の研究手法とは異なるため、既存の学会はないので、その足がかりを得る必要があったため、本年度は、医療者と医療に関する法律家の私的懇談会である「医療と司法の架橋研究会」で発表し、意見交換するに留まったが、同研究会の意見交換結果を踏まえて、次年度医事法学会の個別報告に応募し、採用された。年度内の公的学会での発表はできなかったが、本年度研究成果の発表は決定しており、概ね順調に研究及びその発表は達成できていると考えている。

今後の研究の推進方策

本研究の背景事情の一つとして,無過失の医療事故について,説明義務違反が救済判決として用いられているのではないかという疑問があった。しかし,前記のように、治療結果の重症度は現時点でのデータ上は統計学的に説明義務違反の認定において,有意な関係にあるとはいえなかった。 この理由としては,調査可能な事例は,裁判で判決に至ったものに限定されるが,医療に関して争いが生じた裁判になる事例が限られているうえに,裁判上で判決に至る割合が概ね4割弱くらいであり,判決に至った例は,重症者の割合が非常に高く,偏っていることがあげられる。これは裁判例を利用した調査方法の限界である。今後、この限界を補う方法を検討しなければならない。検証方法として、当初予定していた方法の範囲内のものでは、医療事故の救済について,医療者の過失の有無を問わずに行っている国の制度との比較が考えられる。すなわち、金銭的賠償が認められた例のうち、説明義務が占める位置づけを本邦と、無過失補償を採用している国と比較することで、検証できる可能性がある。したがって、当初予定したよりもこれらの調査の比重を上げる必要がある。 一方で,当初予測していなかったが,説明義務違反の認定に重要な影響を及ぼすと考えられる治療の必要性・緊急性の要素について,裁判例の動向から読み取れる診療科,治療法,疾患等の類型についてさらに詳細に分析していく予定である。併せて,当初予定していたように本年の研究対象とした事例について,損害賠償額に影響を及ぼす因子についての検討を行う予定である。 最終的な到達目標としては、医療現場のインフォームドコンセントにおけるリーガルリスクの減少を提案できる内容としてまとめ、医療系の学会での発表を考えている。

次年度の研究費の使用計画

発表のための費用として,本年度の成果について,次年度医事法学会の個別報告に応募し採択されたので,その発表,発表内容についての論文投稿費用に使用する予定である。また,次年度は病院管理学会または医療の質安全学会のいずれかにおいて,現在,検討中の説明義務違反における損害賠償額と賠償額に影響を与える要因についての演題提出を予定しており,そのための発表旅費も計上している。その他,前記の医療者と医療に関する法律家の私的懇談会である「医療と司法の架橋研究会」へ意見交換のため出席するための旅費を使用予定である。 調査のための費用として,前記のように,当初予想した結果とは異なる結果となっている部分があるが,その原因究明のために,当初予定していた無過失補償制度の調査がより重要度を増している。イギリス,ニュージーランドの2か国で現地調査を行う予定にしているが,その調査結果を踏まえ,必要に応じて追加調査を検討する予定である。 また,データベースの利用は継続的に行っていくため,そのための費用も予定している。 なお,本年度39,471円の未使用研究費については,購入したソフトウエアがヴァージョンアップとなり,そのキャンペーンにより予定金額よりも安価に購入できたため,未使用額が生じた。

  • 研究成果

    (1件)

すべて その他

すべて 学会発表 (1件)

  • [学会発表] 医師の説明義務違反定量的解析の試み

    • 著者名/発表者名
      越後純子
    • 学会等名
      第22回医療と司法の架橋研究会
    • 発表場所
      早稲田大学(東京都)
    • 年月日
      平成24年3月3日

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公開日: 2013-07-10  

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