研究課題/領域番号 |
23659254
|
研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
越後 純子 金沢大学, 大学病院, 准教授 (80579665)
|
キーワード | 医療訴訟 / インフォームドコンセント / 医療過誤 / 損害賠償 |
研究概要 |
24年度までの研究では,医療訴訟において,医療行為の必要性が高い疾患,治療手技に比して,それらが低いものについて,説明義務違反が認められやすい傾向がみられていた。25年度は,それらをより具体化させ,診療科,疾患及び治療法と説明義務違反の関係を研究した。健康保険の適用が無い自由診療の治療手技及び未破裂脳動脈瘤の予防的治療において,説明義務違反が認められやすいことが統計学的に判明した。 また,説明義務違反についての損害賠償額の調査も併せて行った。説明義務違反の損害賠償は,違反と結果との因果関係を認めない場合は,慰謝料のみであるが,因果関係を認めた場合には,慰謝料を大きく上回る賠償が行われていることが統計学的有意差をもって証明された。 さらに,25年度は,研究計画を変更し,研究対象を当初予定した説明義務違反から,医療訴訟全般に拡大して,訴訟の帰趨について調査を行ったところ,未破裂脳動脈瘤の予防的治療は同様に医療機関が敗訴しやすいことが判明した。その他,ERCP後膵炎のような高侵襲の検査に伴う合併症及び急性喉頭蓋炎や絞扼性イレウス等,早期治療開始により,救命が期待できるような疾患において,医療機関が敗訴する傾向がみられることが判明した。他方,アナフィラキシー,肺塞栓,敗血症のように一般的に予後が不良の疾患に関しては医療機関が勝訴する傾向があることが判明した。 本研究は,従来個別の判例分析によっていた医療訴訟の分野につき,統計学的手法を用いて解析を行い,客観化したデータを医療現場に還元することを目的としている。当初の予測と異なる部分もあったが,統計学的手法により客観性をもって上記結果を証明できたことに意義があると考えられる。なお,説明義務違反と結果の因果関係を認められやすい要素は,説明義務違反以外の判例とのさらなる比較検討し,今後の研究課題とする。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初計画においては,説明義務違反は,医療過誤が認められない場合の無過失補償的救済的要素が強いと予測していた。そのため,医療事故の結果が重症な場合に,損害賠償が認められやすいと想定していたが,むしろ結果は逆であることが判明し,研究計画を変更した。 そのような状況下で,研究開始から本年度までの間に行った説明義務違反が認められやすい要素について,研究分析し,学会において発表を行ってきたところであるが,それらを医療現場において実践可能な形に発展させ「医事関係訴訟から読み解くインフォームドコンセントの注意点」として論文発表した。また,説明義務特有の要素を検討するために,説明義務違反以外の判例について調査範囲を広げた。その調査についても医事紛争に発展しやすい類型について分析を終え,学会発表を経て「医事紛争が困難化しやすい疾患・診療行為類型の検討 裁判例からの考察」として論文発表を行ったところである。 当初,研究計画として予定した,裁判所が説明義務違反を認めた場合の賠償額の解析について,慰謝料のみの場合と,慰謝料以外にも賠償を認める事例についての類型化が概ね終了している。26年度において,その成果を発表していく予定である。 また,本研究で抽出した訴訟における説明義務違反の認定に影響を与える因子について,説明を受けた場合と受けない場合の意思決定に与える影響をアンケート調査しており,その結果を現在分析中である。 研究計画の変更に伴い,若干の遅れが出ているものの,主要な成果については,論文で破票を行っており,現在分析中のデータについては,26年度の学会において発表を予定し準備中である。途中経過において想定外の結果が出たため,研究計画の変更を行ったものの,最終的には概ね当初目的とした成果を得られる見込みである。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は,損害賠償の金額とそれに影響を与える因子の関連性について,研究をすすめ,それらの成果の発表を行っていく予定である。特に,26年度は,隔年開催されている世界医事法学会の開催年でもあることから,同学会での発表を予定し,準備中である。 また,併せて,これまでの研究成果から抽出した説明義務違反に影響を与える因子について,説明を受けた場合と受けない場合の意思決定に与える影響をアンケート調査・現在分析中であることから,それらの結果についても発表を予定している。
|
次年度の研究費の使用計画 |
研究結果が当初想定したものと異なった部分があり,研究計画を変更したことで,やや研究全体に遅れが生じた。そのため,最終的な成果の発表時期が26年度にずれこむこととなった。 また,関連分野の国際学会が隔年開催であったため,今年度は発表することができず,次年度に持ち込むことで,国際学会での成果発表が可能になり,より広く発表できる機会を得ることができる。 研究成果の発表に要する費用として使用する。おもに論文投稿出版のための費用,国際学会を含めた内外の学会で発表を行うための旅費等に使用する予定である。
|