本研究において,訴訟上,医療機関が敗訴しやすいパターンを統計学的に提示することができたこと及びその結果のインフォームドコンセントの部分についてアンケートにより追試確認できたことが全体を通じた主要な成果として挙げられる。 当初,2000年以降増加した訴訟上の医師の説明義務違反は,医療行為に過失が認定されなかった事例において,重症な医療事故の救済,すなわち無過失補償目的で認められやすいのではないかと想定し,本研究を開始した。しかし,統計学的な訴訟上の説明義務違反が認められやすい傾向は,医療事故の重症例においてではなく,むしろ軽症例の方が認められやすいことが判明した。そのため,当初予定していた無過失補償の検討は中止した。そして,医療訴訟全体を対象として,説明義務違反がその中でどのような位置づけを占めるのかを検討することとした。 併せて,裁判例の傾向として,緊急性・必要性が高くない種類の疾患群(美容目的や脳動脈瘤の予防的治療等)で認められやすいことが判明した。すなわち,裁判所は,医学的に直ちに行うことが強く推奨される場合以外は,十分に説明を受け,その内容によって治療諾否の結論を決するという自己決定権を担保するため,より高い説明義務を設定している。特に無治療下経過観察という選択肢の提示が重視されていた。 さらに,患者の意思決定に影響を与える情報が説明されていなかったと認定された場合の賠償額は,説明したと認定された場合に比して,有意に高額であることも判明した。この結果は,医療系の学生を対象としたアンケート調査においても,当該情報の有無で結果が変わってくると回答した者が有意に経過観察を選択する傾向があったことと合致した。 上記のうち最終年度の成果としては,裁判例についての上記調査結果の米国医療訴訟における実情との比較も交えた国際会議での発表及び前記アンケート調査部分が該当する。
|