研究課題/領域番号 |
23659255
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研究機関 | 岐阜大学 |
研究代表者 |
谷口 泰弘 岐阜大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (90359737)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | コモンズ / がん診療連携拠点病院 |
研究概要 |
患者の自己決定を中心とする個の生命倫理に関する視点や価値は重要である。しかし、公共政策・組織論からの公の生命倫理に関する医療社会学研究も重要である。持続可能性のある社会資本としての医療を考察することは生命倫理上の命題であるが個の生命倫理に関する研究と比して成果の蓄積は少ない。本研究者は生命倫理における社会的問題を継続して研究してきた。市場理論を応用した医療における情報の非対称性緩衝に向けた研究(H16/17課題番号16790300)、医療におけるコモンズ理論を応用した問題解決モデルの構築に向けた研究(H21/22課題番号216589126)を得て、公的規制と市場化という対立軸で考えず利害関係者が各々のコミュニティの中で最適な医療が提供される環境を整えることの必要性を示し、医療を共有地的な発想で捉え直すことが必要であると指摘してきた。本研究では、医療を共有地的な思考で捉えることの必要性をさらに発信するため、がん対策基本法に基づき整備されたがん診療連携拠点病院に着目した。これをひとつのフィールドと捉え、均てん化のための政策が地域に浸透するのか、コモンズ(共有地)という視点から地域の社会的共通資本として、がん診療連携拠点病院の制度が機能するのかを生命倫理および医療社会学的観点からの考察を試みた。当該年度は、医療を社会的共通資本と見なし、制度派経済学の領域で主張されてきた自律した組織が管理・運営を行うというモデルに、がん診療連携携拠点病院制度が馴染むのか、国、地方自治体、拠点病院を含む医療機関との関係をどう考えるべきかを検討するための基礎的研究と位置付け、コモンズに関する文献調査を行った。伝統的コモンズの理論は閉鎖系で捉えるため、共通項は少ないが、近時、環境領域で指摘されるグローバル・コモンズの考え方は開放系であり、医療システムを考える際にも参考になることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は大きく区分けして2部構成である。初年度は、フェーズI(社会学・経済学領域等)とフェーズII(法学領域等)、2年目は、フェーズIII(フィールド調査領域)とフェーズIV(総合政策領域)の二つの作業を行い、がん診療連携拠点病院がコモンズとして機能するか生命倫理、医療社会学の視点から抽出し、政策の関与の在り方までを具体的にまとめる。初年度の進捗状況は次のとおりであった。 フェーズI(コモンズ理論の先行研究調査):コモンズに係る歴史的背景やその基礎理論について把握するべく文献研究を行った。伝統的コモンズでは、有限の資源下での人の行動を経済合理主義に求めれば利己的な個人の権利主張が横行し所属集団の崩壊が進むとの指摘があるが、それは第三者を除いた所有化や共同管理で解決できるとの考察が散見された(閉鎖系の問題)。一方、環境問題などで使われるグローバルコモンズの考え方は、持続可能性のある社会システムを構築していく(開放系)ために、外部性の問題を克服する必要があるが、社会全体で問題を共有するという方向を採ることが多く、医療に応用できると考えられる。 フェーズII(がん対策基本法の理解及びがん診療連携拠点病院の制度):現行法の成立過程と内容理解に努め、更に指針に基づくがん診療連携拠点病院制度について調査した。法の下、都道府県と二次医療圏を基準に指定され、厳しい要件下でがん医療の均てん化が図られている。各地域でのがん診療の起点となっているが、関与した調査では各施設は要件を満たすことで精一杯であり、補助不足と使用用途の弾力的運営を求めていた。コモンズ(医療版の共有地)を形成するためには、地域特性にあった運営を後押しする政策支援の在り方を模索する必要性があることがわかった。上述の2項目を初年度の研究として実施したが、その進捗状況は当初計画と比して遅れはなく、概ね順調に推移していると点検・評価する。
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今後の研究の推進方策 |
フェーズIIIとして、がん診療連携拠点病院がコモンズとして機能するかフィールドワーク等による調査を行う。フェーズIIで調べたがん診療連携拠点病院制度について、国により施行された法律および指針に基づく理想と実践の最前線であるがん診療連携拠点病院の希望や意見と合致しているのか検討する。既に、申請者が連携研究者として携わったがん診療連携拠点病院に対する施設調査の試料も得ている。自由記載部分から、がん診療連携拠点病院が地域に根差したコモンズとしての医療施設であるための意見抽出を行い検討する。 フェーズIVとして、政策関与の在り方を探る。フェーズI、フェーズIIでの作業内容をフェーズIIIで行ったがん診療連携拠点病院の実態等と照らし合わせ、政策立案という視点からコモンズとしてのがん医療制度を考察し、理論モデルの構築を進める。 そして、総括として、当該研究によって得られた知識および研究資料等を総括・整理し、専門学会誌に投稿し印刷公表する。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究計画について、研究期間中の経費のうち、設備整備費、旅費、謝金等が突出して必要となるような計画は建てていない。社会通念上の問題は無いと考える。平成24年度中に行う既述のフェーズIII、フェーズIVおよび総括の3項目ついて、研究に係る経費として次のとおり予算化した。平成23年度の予算項目の他に調査費用と研究成果印刷を計上した。[内訳]バイオエシックス関系図書(50千円)、社会学・経済学系図書(50千円)、文房具(20千円)、記録媒体(10千円)、消耗性雑誌(20千円)、調査・成果発表旅費(100千円)、印刷費(20千円)
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