個の生命倫理の視点は重要である。一方で、社会から見た公の生命倫理に関する視点も欠かせないが研究の蓄積が不足している。本研究者は持続可能な医療提供制度を考察することは有用性が高いと考えて生命倫理における社会的問題を継続して研究してきた。医療を公・私の対立軸で考えず利害関係者がコミュニティの中で最適に利用できる環境を整えることの必要性を示し、医療を共有地的な発想で捉え直す必要性を指摘してきた。本年度は、フィールドとしてがん診療連携拠点病院に着目し、がん医療の均てん化のための施策が地域に浸透するのか、コモンズ(共有地)という視点から社会的共通資本として、がん診療連携拠点病院が機能するのかを医療社会学的観点から考察した。作業として実施済みの施設調査をもとに外形上の診療機能とは別の視点から問題点を洗い出した。結果、各医療圏で状況は異なるものの、医療スタッフのコミュニケーション能力等を含めた技術や意識の向上や、地域連携のためのクリティカルパスの構築運用の在り方、緩和医療の理解と実践などが重要課題であることが分かった。これらは患者側も求める医療の基軸部分であるが、補助の問題が壁になっていることがわかった。都道府県で補助の金額に多寡があることや使途要件の複雑さが影響していた。加えてがん医療は拠点病院だけで完結せず、連携が奏功して初めて地域でのがん医療の均てん化が進む。がん医療は高度なものとして切り離されてきた診療所等との連携強化や医療者間の相互理解を進める施策が必要であることがわかった。まとめとして、がん診療連携拠点病院の存在をコモンズの一展開として捉えて良いと考える。現場は葛藤を抱えつつも患者、地域に適応しようとしている。がん患者の背景は多様であり選択も複雑系に富むが、それを支援する政策の中に共生を意識した財政措置を含めた柔軟な応援が必要である。これにより医療のコモンズは醸成される。
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