本研究では、来るべき超高齢化社会に向けて、重篤な致死的疾患、中でもわが国の死因の第一位であるがんに罹患した患者、家族が、医療に際して自律的な意思決定を行い、納得のいく治療を受けることが可能となるようなインフォームドコンセントを推進するために、手術や抗がん剤治療等の重大な医療行為の説明に際しての患者の同意能力を適切に評価する方法の標準化を行うとともに、同意能力障害の実態を把握し、またこれら同意能力障害の背景に存在する臨床的要因を明らかにすることを目的とした。 平成25年度は、名古屋市立大学病院血液内科に入院となった65歳以上のがん患者(悪性リンパ腫と多発性骨髄者の入院患者でがん告知を受けた者)29名を対象に、前年度までに修正したStructured Interview for Competency and Incompetency Assessment Testing and Ranking Inventory-Revised(SICIATRI-R)を化学療法施行前に施行し、同意能力に関して検討した。あわせて、患者の精神症状として、Frontal Assessment Battery at Bedside(FAB)を用いて認知機能障害の程度を評価するとともに、PHQ-9を用いてうつ病の有無の評価を行った。なお研究の実施に際しては、研究内容に関して文書を用いて説明し、文書による同意を得た。本説明の際に同意能力障害が疑われた対象者に対しては、家族をはじめとした代諾者からも同意を得ることとした。本研究の結果、軽度のものも含めると高齢血液がん患者の17%に同意能力障害が存在することが示され、短い教育経験、認知機能の低下、抑うつ状態といった異なる領域の要因が同意能力障害に関連することが示唆された。
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