本研究では、抗がん剤ががん患者に与えるリスクを免疫活性の観点から提示するための評価系を確立するため、ヒト小腸株化細胞を用いて、経口抗がん剤処理後のα-defensin mRNA発現変動を測定することによって腸管免疫への影響を評価した。腸管上皮細胞が産生する抗菌性ペプチドであるα-defensinの発現に対する経口抗がん剤と機能性食品成分の影響を検討した。テガフール曝露によってCaco-2細胞中の5 およびHD-6 mRNA発現量は減少したが、機能性食品成分エピガロカテキン(EGCg)を同時添加すると、テガフールによるHD-5 およびHD-6 mRNAの減少は抑制された。また、EGCg曝露濃度依存的に、テガフールによるHD-5およびHD-6 mRNA量減少を抑制する傾向が見られた。特に、HD-5における抑制効果は、HD-6と比較しより低濃度で効果があることが明らかとなった。さらに、サイトカインの発現に及ぼす影響についても検討を行い、IL-8およびIL-1βの発現上昇を確認した。 以上の結果より、EGCgは腸管において、テガフールによるα-defensinte mRNA量減少を抑制することが示され、抗がん薬治療による免疫低下を改善できる食品素材となり得る可能性が示唆された。がん患者においてはサプリメントの使用が多く見られるため、日常摂取される食品機能性成分との併用時のリスクを評価し、抗酸化成分が抗がん剤による腸管免疫低下を回復する可能性を見出した。本研究において確立された評価法は、機能性食品の安全性評価における新たな基準となり、がん患者のみならず、生活習慣病を予防する食品の探索等、健常人の健康維持・増進にも役立つことが大いに期待される。
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