研究概要 |
アンジオテンシンII (AngII)は心肥大および活性酸素種の増加作用を有する。一方、肥大心が不全心に移行する過程には、レニン・アンギオテンシン系の活性化が関与していると考えられている。平成24年度でも23年度に引き続き、Ang II投与により心肥大が形成され、左室駆出率 (EF)はAng II投与により有意に低下し、心筋収縮能低下が引き起こされることを、小動物用心エコーにて評価した。野生型マウスの心臓において、AngIIの投与の有無によりどのような遺伝子発現変化が引き起こされるかをマイクロアレイ解析を行い、どの項目が特徴的に変化しているのかプログラム解析を行った。炎症関連遺伝子群(chemokine関連遺伝子)の発現亢進と細胞外マトリックス関連遺伝子群(collagen I, III, TN-C)の発現増加の変化が著明であった。 また、本研究では心肥大が心不全に到る過程に脂質合成系がいかに関与しているかを明らかにすることも目的としており、その一環として脂質合成系転写因子であるSREBP-1に注目した。SREBP-1ノックアウトマウス (KO)にて同様にAngIIの負荷を行ってみたところ、AngII負荷による心機能低下が抑制されており、また、野生型に認められた遺伝子変化(炎症関連遺伝子および細胞外マトリックス関連遺伝子の発現)は抑制される傾向にあった。 更に、野生型のAng II投与群では、抗酸化に働く遺 伝子群の発現低下とそれらの発現制御を担う転写因子Nrf2の発現が低下していた。これらの結果は、不全心筋の成立には慢性的な炎症反応が関与している可能性を示唆する。一方、KOマウスではこれらの変化が抑制されていることから、脂質合成系の関与あるいはこれらにより生成された脂質が不全心筋の発症に寄与している可能性が示唆された。
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