培養平滑筋細胞、骨髄由来平滑筋様細胞、骨髄由来単核白血球の遊走能が、ADP並びにその安定体である2MeSADPの刺激により、コントロール群と比較して有意に増大することが確認された。シグナル伝達解析を行ったところ、遊走能の亢進はPI3-Akt経路並びにERK経路を介することが確認された。また、P2Y12受容体の欠損により、ADP並びに2MeSADP刺激による遊走能の亢進が有意に低下することが確認された。さらに2MeSADP刺激によって、骨髄由来細胞から平滑筋様細胞への分化能が亢進することが明らかとなった。分化能の亢進は、もう一方のADP受容体であるP2Y1受容体を介したものであり、P2Y12受容体は分化能に対して影響を及ぼさないことが確認された。以上の結果から、血小板上に発現しているP2Y12受容体だけでなく、血管平滑筋細胞や骨髄由来平滑筋様細胞、骨髄由来単核白血球上に発現しているP2Y12受容体も、上記経路を介した遊走能の亢進により、移植後動脈硬化の進展に関与していると考えられる。これまでチクロピジンやクロピドグレルといったP2Y12受容体拮抗薬は抗血小板薬として臨床適応されているが、本研究結果より、免疫抑制薬としての適応拡大の可能性が考えられる。さらに作用機序が異なるシクロスポリンやタクロリムス等の免疫抑制薬との併用による相乗効果も期待でき、移植患者の予後の更なる改善につながる可能性が考えられる。
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