本年度は、まず、昨年度に構築したpiggyBacトランスポゾン内にtdTomatoおよびGLucの発現配列を搭載した環状ドナーベクターを用いてマウス体内における遺伝子発現の確認を行った。ベクターをハイドロダイナミクス法で尾静脈より投与し、遺伝子発現を評価したところ、組み込みのおこらない場合と比較すると、血清中のGLucの発現ならびに肝実質細胞におけるtdTomatoの発現は、投与直後はほぼ同じであったが、GLucの発現持続および微弱ではあるがtdTomatoの発現持続が認められた。また、マウス骨髄より採取した初代培養間葉系幹細胞にトランスポゾンを用いてEmGFP配列を組み込むと、少なくとも約1か月間発現が持続した。これらの細胞は、組み込みのない細胞と同様に脂肪細胞などへ分化した。次に、治療法確立を目的とした新たなベクターの設計・構築および発現の評価を行った。ここでは、トランスポゾンと同様にゲノムへの目的配列の組み込みが可能で、かつ配列依存的に遺伝子が挿入されるphiC31インテグラーゼを用いて、肝再生を促進することが知られるHGFの配列をゲノムに組み込みが可能なベクターを作製した。まず、培養細胞でHGFの長期発現を確認し、次に、マウスの尾静脈よりハイドロダイナミクス法で投与したところ、少なくとも1か月は発現を持続させることができた。さらに、phiC31インテグラーゼを用いて、特定の遺伝子配列を認識するDNA結合タンパク質を両端に有するタンパク質を発現させて、ドナーベクターと組み込み先の配列をより近傍に配するベクターを構築した。これを用いると、目的とする組み込み先の配列近くへの遺伝子組み込みの効率を上昇させることができた。以上、本研究を通して、治療タンパク質の長期発現、さらに、特定の配列への組み込み効率を上昇させる可能性のある安全性の高いベクターの設計ができた。
|