研究概要 |
癌を正常細胞化させることはできない。それが常識であった。しかし画像診断上、「治療経過中に腫瘍が徐々に消失していく。」このような治療が夢ではないのではないかと、実感している。miR-520dを低分化あるいは未分化な癌細胞株に導入することで酷似した現象を確認し、xenograftモデルで幹性誘導機序で癌形質抑制能があることを見出した。この分子生物学的な特徴は、多能性マーカーと癌抑制遺伝子(P53)が高発現すること、脱メチル化遺伝子AID(AICDA)が強く抑制されていることである。また導入癌細胞が免疫不全マウスにおいて奇形腫や派生正常組織に変化することからiPSCや間質性幹細胞へと転換されたことを示唆している。この成果を1月に発表した(Scientific Reports, 2014)。 この現象は、「hiPSC生成メカニズムの解明と癌の良性化または正常細胞化が現実に可能であり、相互にリンクしていること」を示唆している。miR-520d, ELAVL2は未分化癌を発生由来細胞へ回帰させ、悪性形質を喪失させる特徴を持ち、治療へ応用すれば、癌細胞が元の正常細胞へ形質転換する世界に類を見ない画期的な生体分子である。 正常細胞に関しては、導入された線維芽細胞、血管内皮細胞、角化細胞、扁平上皮細胞は、免疫不全マウスにおいて造腫瘍性を有しないため、がん細胞(特に癌幹細胞)に劇的な効果が期待できることも重要な特徴である。 当該miRNAである520dは標的として3種の遺伝子を同定した。メカニズム解析では、DNAレベル、RNAレベル、メタボローム解析を行った。レンチウイルスによる導入後5日目の癌細胞の脱メチル化誘導に因り、メタボロームネットワークのサイレンシングが連動して起こり、iPSレベルまで脱メチル化する。この誘導が本現象の根幹にあることを明らかにしえた。遺伝子異常に関してはまだ実施できていない。今後はメカニズムの解明に傾注する。
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