研究課題
近年,健康食品への関心が高まる一方で医薬品との相互作用による副作用の報告数も増加しており,食品と医薬品の併用効果・相互作用についての科学的検証が強く求められている.現在までに緑茶と医薬品の相互作用についての報告は僅少である。本年度は,カテキン類高含有緑茶エキス(GTE)が シンバスタチン(SIM) の薬物動態に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした.GTE として Sunphenon BG-3 extract(太陽化学)を使用し,雌性 SD 系ラットに GTEおよび control 群として生理食塩水を単回または7 日間投与し,30 分後に SIMを経口投与した. SIM 投与後 6 時間まで経時採血を行い,SIM および活性代謝物シンバスタチン酸(SVA)の血漿中濃度を LC/MS/MS 法により測定した.GTE および TAO 単回投与ラットにおける SIM の血漿中濃度-時間曲線下面積(AUC)は control 群に比較してそれぞれ 156% および 481% 有意に増加した.また,Cmax はGTE 群で 1.7 倍control 群より高値であった.GTE 反復投与ラットにおいても同様に,SIM の AUC および Cmax は control 群に比べ著しい増加がみられた.SVA については,GTE 単回および反復投与のいずれの場合においても AUC,Cmax および t1/2 は control 群と比較し高値を示す傾向が認められた.以上より,ラットにおいて GTE がSIM の体内動態を変動させることが示唆された.予備試験として、健常人での臨床薬の体内動態に及ぼす緑茶の影響を調べ,緑茶が薬物の血漿中濃度を上昇させる知見を得た。
2: おおむね順調に進展している
2008年にWerbaらにより、高脂血症患者での緑茶飲用が、その治療薬のシンバスタチンの血漿中濃度を有意に上昇させ副作用(横紋筋融解症)を惹起するという臨床知見が報告された。本研究は、この報告に基づき、その作用メカニズムと日本人での緑茶とシンバスタチンの相互作用を検証する目的で開始した。初年度は、まず基礎研究を主眼として、ラットを用いて緑茶飲用がシンバスタチンの体内動態に与える影響を精査した。その結果、ラットへの緑茶飲用がシンバスタチン経口投与によるシンバスタチン酸(薬理活性代謝物)の血漿中濃度を有意に上昇させることを見出した。一方、シンバスタチンそれ自体の血漿中濃度には変化なかった。これより、Werbaらの高脂血症患者での結果をラットでも再現することができ、本研究結果を基に、今後の緑茶とシンバスタチンなどの医薬品との相互作用メカニズム並びに日本人での臨床研究を推進する予定である。以上の結果から、初年度の研究の目的を達成できた。
1)23年度のラットで得られた知見を基に、小腸や肝臓ミクロゾームの薬物代謝酵素に対する緑茶カテキン類(エピガロカテキンなど)の作用を精査することにより、シンバスタチンなどの薬物代謝酵素の阻害作用の有無を明らかにする。また、シンバスタチンの代謝に対する緑茶カテキン類の作用を調べる。2)日本人の健常人において、緑茶の飲用がシンバスタチンの経口投与後のシンバスタチンラクトンおよびシンバスタチン酸の血漿中濃度に及ぼす影響を検討する。本臨床試験は、浜松医科大学の渡邉裕司教授との共同で行う。試験計画については、Werbaらのイタリア人患者での試験プロトコールを参照して実施する。
次年度使用額(23年度繰り越し):988,116円 24年度の所要額:1,400,000円 合計:2,388,116円研究経費は、主として、試薬や実験動物などの消耗品(物品費)である。その他、旅費と人件費・謝金などとして次のように使用する。物品費:1,888,116円 旅費:200,000円,人件費・謝金等:300,000円
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