研究課題/領域番号 |
23659287
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研究機関 | 静岡県立大学 |
研究代表者 |
山田 静雄 静岡県立大学, 薬学部, 教授 (80106434)
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キーワード | 緑茶 / カテキン類 / スタチン剤 / 日本人 / 血漿中濃度 / 体内動態 / 相互作用 |
研究概要 |
【背景・目的】緑茶およびカテキン類は,これまでに癌予防効果をはじめ様々な健康増進作用を有することが報告されている.最近,イタリア人の高脂血症患者においてカテキン類を多く含んだ緑茶の飲用によりシンバスタチン(SIM)の血中濃度が顕著に増加した症例が報告された.この報告に基づき,カテキン類高含有緑茶の摂取が SIM の体内動態に及ぼす影響を,健常人を対象としたオープンラベル・クロスオーバー試験により検討した. 【実験方法】試験は文書同意を得られた健常人男性 7 名を対象とした.被験者は被験飲料としてカテキン類高含有緑茶または水を 2 週間飲用し,15 日目に SIMを同時に経口服用した.SIM 投与後 24 時間までの SIM および活性代謝物シンバスタチン酸(SVA)の血漿中濃度を高速液体クロマトグラフ/タンデム質量分析法にて定量し薬物動態パラメータを算出した.2 週間の休薬期間の後,被験飲料を入れ替えて同様の試験を行った.本研究は浜松医科大学倫理委員会の承認のもと実施し,UMIN-CTR に臨床試験の事前登録を行った. 【結果】緑茶投与群では,コントロール群と比較して SVA の最高血中濃度および血中濃度時間推移下面積はそれぞれ 2.2 および 2.3 倍に上昇したが,消失半減期に変化はみられなかった.一方,SIMの薬物動態パラメータについては両群間に差異が認められなかった.【結論・考察】ヒトにおいてカテキン類を多く含んだ緑茶の飲用は SIM の活性本体である SVA の体内動態を変動させることが示された.SVA は種々の代謝酵素やトランスポーターの基質になることが報告されていることから、カテキン類の代謝酵素やトランスポーターに対する作用について検討が必要と考えられた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
緑茶に含有されるカテキン類の医薬品、特に高脂血症治療薬のスタチン剤(シンバスタチン)の体内動態に及ぼす影響を調べる研究において、昨年度(23年度)は、ラットを用いた動物実験により検証した。その結果、カテキン類がラットにおいて経口投与されたシンバスタチンの血漿中濃度を有意に増加させることを明らかにした。 この結果に基づき、本年度は日本人の健常人における臨床研究を実施したところ、ラットでの実験結果と同様に、緑茶カテキン類の飲用がシンバスタチンの血漿中濃度を有意に増加させることが示された。本結果は、イタリア人患者で報告されたWerbaらの報告と同様であった。 以上の結果から、シンバスタチン服用の高脂血症患者においては、緑茶の飲用はシンバスタチンの治療効果や副作用(横紋筋融解症やミオパシーなど)を増強する可能性が示唆された。当初の研究計画はほぼ達成されたが、イタリア人での結果との比較研究や、緑茶カテキン類とシンバスタチン剤の相互作用のメカニズムをin vitro実験により検証することが必要である。
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今後の研究の推進方策 |
ラットおよび日本人健常人におけるこれまでの研究結果に基づき、今後はイタリア人での緑茶(カテキン類)飲用とシンバスタチンの相互作用や、その相互作用のメカニズムを精査する研究をすることが重要となる。 そこで、まずミラノ大学関連病院のPablo Werba博士と共同で、日本人での臨床研究と同様なプロトコール(試験計画)によりイタリア人での臨床研究を実施する。これにより、緑茶とスタチン剤の相互作用が人種差によるものか、緑茶飲用がスタチン剤の投与に与える影響が日本人とイタリア人(白人)とで差異があるか、などを明らかにすることができると考えている。 また、ヒトやラットの肝臓細胞を用いて、シンバスタチンの薬物代謝酵素(チトクロームP-450など)に対する緑茶カテキン類の阻害作用の有無を調べるin vitro実験を行うことにより、緑茶飲用による医薬品(スタチン剤)との相互作用のメカニズムを明らかにし、臨床における意義を考察することができる。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度の研究費用は、緑茶飲用による医薬品との相互作用の共同研究の実施や研究のための情報収集に使用する。また、相互作用のメカニズムを精査するための実験における試料、試薬や消耗品などの購入費用とする。また、情報収集のための学会での発表や参加のための経費(参加費、旅費・宿泊費など)、投稿論文作成の経費や人件費(実験補助など)として使用する。
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