エイズの原因であるHIVは、HIVプロテアーゼ(HIV-PR)や逆転写酵素など、ウイルスの複製に必要な独自の酵素を持っており、これら酵素の阻害剤がエイズ治療薬として臨床使用されている。しかし、長期間の投薬などによって、HIV-PR遺伝子に変異が起きると、これら薬剤に対して耐性を示す。したがって、薬剤耐性を獲得した変異HIVを識別する検査法は、エイズの診断や治療だけでなく、抗HIV薬開発においても重要である。そこで、申請者が開発したペプチドに特異的な蛍光誘導体化反応とHPLCを組み合わせた新規HIV-PR活性測定法を用いて、変異型HIV-PRを識別できるか調べた。 既報を基に2種類の変異型HIV-PR(MaおよびMb)を作製し、野生型および変異型HIV-PRを発現している大腸菌抽出液を調製した。3種類のアセチル化ペプチドを基質として、それぞれの大腸菌抽出液と酵素反応させ、生成したペプチド断片を特異的に蛍光誘導体化した後、HPLCによって分離・蛍光検出した。それぞれのHIV-PRの基質分解パターンをHPLCによって調べたところ、野生型および変異型各HIV-PRは、それぞれ異なるHPLCパターンを示した。 また、抗HIV薬のサキナビル(HIV-PR阻害剤)の野生型および変異型HIV-PRに対する50%阻害濃度を本測定法によって調べたところ、野生型:62.0 nM、変異型Ma:127.9 nM、変異型Mb:52.5 nMであった。この結果は、変異型Maはサキナビルに対して阻害を受け難い耐性を持ち、変異型Mbはサキナビルで阻害され易いという、これまでの報告と一致していた。 以上の結果より、3種類の基質を同時に使用する本測定法は、変異に関する塩基配列の情報がなくとも、薬剤に対する変異型を識別できることを示しており、薬剤耐性HIVの診断や治療薬開発に有用と考えられる。
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