研究課題/領域番号 |
23659305
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研究機関 | 北里大学 |
研究代表者 |
小寺 義男 北里大学, 理学部, 准教授 (60265733)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 血清 / タンパク質 / 翻訳語修飾 / 診断マーカー |
研究概要 |
疾患特異的な翻訳後修飾やプロテアーゼによる切断、スプライシング異常等のタンパク質の状態変化(ここでは「変異」と記述する)が様々な点で疾患に関与していることは明らかである。しかし、現状ではリン酸化や糖化などの特定の翻訳後修飾についてはその分析が行われているが、それ以外のタンパク質の変異に関しては幅広く探索する方法がない。また、上記のリン酸化や糖化においても複合的な変異やヘテロジニティーの大きい糖鎖に関しては十分とは言えない。そこで、本研究では、独自の前処理技術と最先端の質量分析技術を組み合わせて、血清中の任意のタンパク質の変異を網羅的に分析する方法を開発し、さらに、その変異の各種疾患との相関を解析する。 本年度は2種類のタンパク質の変異を分析するための(1)血清の前処理法と(2)SRM法(Selected Reaction Monitoring 法)による同時分析法の確立を行った。詳細を以下に記載する。(1)血清の前処理法:ここでは簡便に目的とするタンパク質を簡便に濃縮することが理想的である。そこで市販のアルブミン/IgG除去カラムの使用を試みたが、操作に1時間以上を要すること、さらに、今後の多検体分析を考えると1検体約3000円ではコストが高いため別の方法として独自に開発した前処理法を試みた。その結果、この方法で2つのタンパク質を簡便にかつ比較的迅速に濃縮することが出来た。そこで、この方法で処理した血清に対して効率の良いトリプシン消化法を確立した。(2) SRM分析法の確立:連携研究者の五島(産総研)によってコムギの発現システムを用いて調製した上記2種類の目的タンパク質をトリプシン消化し、これに対してSRM分析条件の確立を行った。その結果、両方のタンパク質において80%以上のトリプシン消化ペプチド断片を定量分析するためのパラメタ-を決定することが出来た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では質量分析計を使った定量分析法(SRM法)を用いて目的タンパク質の酵素消化断片を出来るだけ網羅的に定量分析し、個々の断片の存在量を比較することにより部位特異的な修飾や切断の情報を得ることを目的としている。本年度は2つの目的タンパク質に対してアミノ酸配列の80%以上を網羅する定量分析計を構築できたことは当初の計画どおりである。
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今後の研究の推進方策 |
当初の研究計画に変更はない。今後は確立した定量分析法を実際の血清試料に応用して、個々のペプチド断片の分析が妥当に行われているかを評価し、その後、膀胱癌患者血清、腎細胞癌患者血清、または、肝癌患者血清に応用する。
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次年度の研究費の使用計画 |
(1)分析精度と信頼性の確認(健常者血清を対象として):健常者血清数例を対象に分析し、平成23年度に決定したパラメターで目的タンパク質由来のペプチド断片を確実に分析できていることを確認する。上記の通り、血清は非常に複雑であるためSRM分析する成分以外のタンパク質由来の成分を重複して検出している可能性がある。これに関しては、様々な実サンプルを測定して確認する必要がある。したがって、まずは健常者血清を5例程度分析して、確実に目的タンパク質由来のペプチドが分析できていることを確認する。また、安定同位体標識タンパク質を内部標準にした各ペプチド分析の再現性、定量性についても確認を行う。(2) 疾患特異的なタンパク質変異状態の探索: (1)で確認できた分析方法で、各種疾患の患者血清を分析する。疾患としては連携研究者の野村(千葉大学医学部附属病院疾患プロテオミクスセンター・センター長)の研究対象である肝疾患(肝癌手術前後、肝硬変、肝炎、アルコール依存症、健常者各20例)と、北里大学医学部泌尿器科の協力のもと膀胱癌ならびに腎細胞癌患者血清を対象に行う。研究分担 方法の開発はほぼ全てを研究代表者と博士課程3年の大学院生(斎藤達也)と研究支援者(加藤利佳)で行う。また、以下の点において3名の連携研究者の支援を受ける。前田忠計(北里大学・名誉教授): データの解析、情報収集のための学会、研究会参加。野村文夫(千葉大学医学部・教授):血清試料の収集、選択。分析データの解釈。岩村正嗣(北里大学医学部・講師):血清試料の収集、選択。分析データの解釈。
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