筋萎縮性側索硬化症(ALS)モデルマウスを用い、銅イオンのバイオマーカーとしての有用性を検討した。4種類のヒト変異SOD1(G93A、G127X、G85R、D90A)を持つトランスジェニックマウス(Tg)を用い、野生型SOD1とC57BL/6マウスを対照にした。G93AとD90Aは活性部位の銅親和性が高く、G127XとG85Rは低いが、親和性の高低に関わらず、脊髄銅濃度はいずれのTgマウスでも有意に高く、SOD1活性に関与しない余剰な銅の存在が示唆された。細胞内銅取り込みに関与するSteap2、Ctr1、細胞内銅シャペロンのCox17、Atox1はいづれのTgマウスでも脊髄で有意に増加、銅排泄に関与するAtp7aは有意に低下していた。G93Aマウス脊髄銅濃度は週齢依存的に上昇していた。銅キレート剤のammonium tetrathiomolybdateをG93AマウスにALS症状発生後から投与すると、脊髄銅濃度は対照(B6SJLマウス)と同レベルに低下、生存期間は対照(PBS投与)に比し11%延長(平均120日 vs 134日)、罹病期間は40%延長した(平均27日 vs 39日)。脊髄前角の神経細胞と軸索の減少を有意に抑制、筋線維の減少も有意に軽減した。脊髄前角でヒト変異SOD1凝集も抑制した。これは不溶性画分減少の結果であることがin vitroの検討から明らかとなった。変異SOD1の凝集には過剰な細胞内銅の関与が示唆された。銅は必須微量元素であるが、過剰量ではアポトーシスや酸化ストレスを惹起し細胞毒性を発揮する。本結果は、細胞内への過剰な銅蓄積は変異SOD1を有するALS に共通する現象で、変異SOD1の細胞毒性は、細胞内銅濃度の恒常性を障害することと密接に関連することを示唆する。変異SOD1を有するALSでは銅イオンが疾病のバイオマーカーとなる可能性が示唆される。
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